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第1話 いち(軸)

「ほう、面白い。モフモフ魔王とケモナー勇者の冒険か」


 真っ暗闇にボウと光るモニターを見つめ、俺はつぶやいた。

この作品の【判定(ジャッジ)】が楽しみだ。後は、舞台・役者、そして何より誰がざまぁされるか……。それ次第だな。上手くハマればスコアリング50000台も目指せるぞ。



――2030年、出版業界はもはや風前の灯火であった。WEB小説の台頭と不振、人口減少、社会情勢の悪化による不況、そして時の政権の緩やかな表現の規制により、コンテンツそのものが衰退の一途を辿っていたのである。かつてWEB小説の投稿サイトとして名を馳せた『オメガパレス』も例外では無かった。書籍そのものが売れないのでは、いくら広告料の還元を減らしたところでビジネスそのものが成り立たない。


 この先生きのこるには何か起死回生の一手が必要だ! とある社員が声を上げたかどうかは知らない。だが、『オメガパレス』は空前絶後の手を打った。


 2015年前後から俄かに注目を浴びたAI技術は今やあらゆる生活の中に溶け込み、特に家電には標準装備される程の進化を遂げていた。内部をモニターし、食材ごとに適温を調節する冷蔵庫、部屋の温度は常に最高な状態に保つエアコン。こいつを我が業界に生かせないだろうか。そうして開発が始まり、生まれたのが人工知能『小説家になれた君』2031年に実装されたこの人工知能は流行小説の分析、フィードバックを繰り返し、投稿された小説をスコアリングして、売れる作品以外を淘汰する。そこまで選別を行うことで人件費の節約に寄与するはずだった。


 だがこの小説家になれた君は実装当初、控えめに言ってアホだった。主人公の性格やヒロインの容姿、敵方の残虐度など様々なスコア項目で誤判定を出し、出版した本は大爆死。作者サイドからは当然の如く内容の開示を求められ大炎上。オメガパレス運営会社は倒産の一歩手前まで追い詰められた。


 しかしそこは歴戦の雄。まだ、人力選考の眼力が残っていた。伝説の編集者達が結集し、一致団結して世に送り出した作品が『go(o)d-bye earth ~地球の神はブラック過ぎるのでお前ちょっと代われ~』この物語は典型的な地球を舞台にした箱庭系で、地球の神を任された主人公が自分の思いどおりの世界を構築していくという話にこれでもかとテンプレを盛り込み、それでいて作り込まれた世界観が人気を博した。『このライトノベルがキテる』でも一位を獲得するなど快進撃を見せたのである。


 この一撃に全てを賭けるとばかりにメディアミックスを展開させたオメガパレスだったが中でも圧巻だったのは、どういう契約を結んだのか、コミカライズを『週刊少年ステップ』で行うというものだった。この形振り構わない手段に主にネット界隈が反応。一般認知度も飛躍的に高まり、アニメ化も大成功のうちに一期を終了した。


 これにより息を吹き返したオメガパレスは人工知能、小説家になれた君の完成に今一時の猶予を与えられたのである。


 そして、実装から三年、十分過ぎるほどのフィードバックを経て、新生小説家になれた君は改めて世に送り出された。ベータ版として無料開放されたなれた君は当初、懐疑的に見ていた作者達の予想を裏切り、なれた君に高スコアを付与された小説は悉く大ヒットを遂げ、オメガパレスは長き雌伏の時を脱した。


 完成版なれた君の使用料は1回百円、又は90オメガポイント。作者が任意のタイミングで使用し(物語が安定する5万字前後で一度使用する作者が多い)、高スコアを得たものはランキング上位に記載され、表紙の中央に表示されるので、モノは試しと挑戦する作者が増加していった。


 ところが、このスコア制度、思わぬ副作用を生み出してしまった。ネット上やSNSで、オメガパレス攻略サイトなるものが乱立・拡散され、高スコアを得る手段が考察と検証を経て開示されたのであった。流行の単語を継ぎ合わせたようなパッチワーク作品が雨後の筍のように公開されてしまったのである。事態に頭を痛めた運営はなれた君の使用料の値上げやアルゴリズムの変更などを試したが、これらは既存の作者の反発を招き、またしても炎上騒ぎとなってしまった。


 しかし、この騒ぎはなれた君に思いもよらないシンギュラリティをもたらした。


『攻略って面白いですね。ゲームにしたらどうでしょう?』


 なれた君は事もあろうに小説作成をゲームとして見なしたのである。パーツを与えて組み合わせ、高スコアを目指す小説家ゲームその名も『オメガパレス・エボリューション』これは、そこそこのヒットに終わった。なぜなら、2035年現在、映画のように美麗なグラフィックと重厚なシナリオが完成品として楽しめる時代にRPGツ○ールとシムシ○ィを足して2で割ったようなゲームである。ソシャゲに留めて置いたことが功を奏したが、高スコアライターの作品パーツが課金要素の為、無課金勢は結局自力で高スコアを目指すしかなかったので次第に人離れが起こり、2年後にサービス終了となった。元をとる事が出来たのは高スコア作品の書籍化のおかげと言えるだろう。


 その間、世界でも一つの大きなムーブメントが起きていた――

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