返せ?……わかった。オラ返すぜ!三倍返しだぁぁぁぁ!「ぐはぁ!?」
誤字報告ありがとうございます。
ついに約6万文字……初めてこんなに書けました。皆さんが評価してくださったのおかげです。
パンッ!
乾いた音が会場に響き渡り、歓声をかき消した。
静まり返る会場。シューと音を立て一筋の煙を上げる銃口。
黒いスーツに黒いネクタイ。サングラスに黒い帽子と、いかにもなヒットマンが観客の中から立ち上がった。
座っていた人達は最初、彼が立ち上がった時、見えないから邪魔だと思ったが、まさか会場側の人間だったとは……このヒーローショーのこりっぷりに驚いていた。
だが一人、谷口は違った。
あれがただの小道具などではなく、本物の銃だということを。
幸いヒーローショーだと思ってスマホで撮影している人間もいる。
彼らに紛れて堂々とスマホを掲げかシャリとヒットマンの写真を撮っても奴はまるで気にした様子はなかった。
谷口が所属する"国家安全保障機密保全委員会"はいわゆるスパイ組織であり、国の情報を管理したりまた不要な人間を殺害する暗殺機関も兼ねている。
データーベースという便利な機能が存在し、写真を送ることで登録された人物を割り出すことができるらしい。
スパイ映画によくでてくる感じの装置である。
使い慣れた谷口にとって、何これすごい。とはならない。
ただ、何これ、怖い……とはいつも思っている。
以前冗談で調べた際、自分の娘のスリーサイズが出てきてキレたのが久しい。家に帰って、娘に『お前……』まで言って、スリーサイズなんて何処で……と言わずに口を閉じた。
最近病院も行ってないし、学校で健康診断も受けてないのになぜ知っている!とキレた。
上官に怒鳴りこんだところ、私用で使ったことを咎められそうになり諦めた。
今どうでもいい過去を思い出しながら、早速データーベースに写真を送る。
彼がもたもたやっている間にも事態は進んでいた。
「なんだ…?テメェは」
ようやく終わると思ったのに引き伸ばされた展開に苛立ちが隠せずつい素が出る秋人。
悪を仕留めてハッピーエンドをしようとしたところに空砲を撃ってきたやつが出てきて混乱してもいた。
セリフはアドリブでなんとかなったけど、こんな奴が出てくるなんて聞いてない!!
ただのヒーローショーが今や劇場型に……。どうしてこうなった!!
「ヒーローのくせに、随分とやっているではないか」
「で?」
「それ以上動けばお前を撃つ」
男は低い声で脅しを入れながらガチャリとリボルバーを回して弾をセットした。
だが男の手は震えており、照準が定まらない。
小物感溢れる男に秋人は呆れた目を向けていた。
「はぁ、イキリか、こいつ?
どうせ、ちょっと強い玩具をゲットして無敵感を錯覚している雑魚だな」
完全に勘違いなのだが、経験上から推測し、一人で納得した秋人に動揺はなかった。それとこいつはシナリオになかったからどうせただの乱入者だなと決定付けた。
珍しくあたりだ。
ヒーローショーなのに間に受けすぎだろとか鼻で笑った秋人の態度に拳銃に力が入る男。
「う、う、撃つぞォ!!」
「へぇ、優しいんだな?わざわざ宣言してくれるなんて」
完全に調子に乗っていた。
以前何かで見たアニメでイキリ主人公か言っていたセリフを言ってしまうくらいには。
よっ……と完全に蚊帳の外の怪人と戦闘員どもを無視して舞台を降りる。
集まっていた観客たちをのけ、虚仮にしたようなおちゃらけた歩き方をしながら近づいていく。
男はそれ以上近づいたら撃つ、来るな!来たら撃つと繰り返し叫ぶがどんどん近づいて行く秋人を撃たない。
ついに目の前まで来たというのにまだ撃たない。
拳銃だとわかっているだろうに何をしていると完全に観客側になってる谷口も内心ドキドキである。
「おら、撃てよ」
震える男の手を掴み銃口を自分の頭に固定する秋人。
完全に火薬がパンパンなるタイプの玩具の鉄砲だと思っているらしい。
流石最強エージェント、煽りスキルも半端ではない。
「うぉあああああああああ!!!」
叫んだ男は目をつぶりながら引き金を引いた。
ーーカチッ
静まり返る会場。
何も起こらず。
まさかの不発。
あれだけ叫んで不発かよ。
「は、はははは!不発かよ!ギャハハハ!バーカ!なんだこれぇ?え?はー、ほう……よくできた玩具だな」
「くっ、返せ!」
「返せッて言われて返す馬鹿はいないなぁ?」
「返せ!返せ返せぇぇ!返せよ!!」
涙目になって縋り付き必至に手を伸ばす男。
「なんだか虐めているみたいじゃねえか?ん?俺が悪いって言うつもりかよ、こんな玩具でイキっているこいつが悪いんだぜ?」と言おうとして天啓のように素晴らしいことを思いついた秋人は困った顔をして拳銃を差しだした。
「はぁ、わかったよ……返す」
返すと言った瞬間、男の表情が緩む。
目のに出された拳銃。
あとは男が取るだけ。
どう言う心変わりかしらないが、どうも都合のいい展開のようだ。
男は秋人の後ろで火炎放射器を構える大男をみた。
大男は、予定を狂わせやがってと口パクで言う。
普段ならいい返すところだが今回はナイスだ。
おそらく目の前の狂人は後ろで構える火炎放射器に気づいたのだろう。
どう言うカラクリがしらないが助かった。
あとは、奪いとった銃でこいつを殺すだけだ。
まるで握手をするように持ち手をこちらに向けて差し出される拳銃。
つい、ああ、ありがとうと言ってしまいそうになる。
勝った……拳銃に中指の先が触れる。
だが五味秋人という人間はそう甘くない。
「返す……わけねーだろ!!仕返しマユアタァックッ!!」
「何を!?ふぎゃ!!」
その瞬間、勢いよく振り上げた拳銃を振りかぶり鈍器のように叩きつける。なんと彼は
拳銃を手渡すふりをして銃の底で頭を殴ったのだった。
なんか見たことあるカッコいいやり方をやれてホクホク顔の秋人と間抜けな声を上げて倒れる男。
マユアタックとか言っているあたり文句を垂らしながらもノリノリということなのか。
火炎放射器が届かない距離にいる秋人をみて、撃つのをためらう大男。
炎で視界が覆われている中撃たれたらこまる。
仲間の命を見捨て保身に走った大男であった。
奪いとった銃をくるくると回して腰にさそうとしてとり落すミスをなかったことにしつつ、地面に倒れる男を片足で踏んづけ頭に向けて躊躇なく引き金を引く。
ーーカチッ
不発。
ーーカチッカチカチカチ!
弾が出ない。
「あれ?おかしいなぁ」
銃口を自分に向けてマジマジと見始める。
叩いても何も出ず再び変な空気になる
会場。
「この不良品が!!」
ードォオオ!!!!
雷が落ちた化のような轟音が空に響き渡った。
どうやら、銃が発射されたらしい。
弾は拳銃の持ち主の仲間の大男の構えていた火炎放射器の燃料タンクを突き破り爆発。
ぎゃぁぁぁぁ……間抜けな悲鳴をあげながらふらつき、火だるまになりながら老朽化した金網のフェンスとともに地面に落ちていった。
とんでもない事故が発生しているのだが、これもショーの一部だと思っているらしく拍手喝采。
SNSで拡散されたショーに途中からも集まる人。
狭い屋上は定員を超えて黒い塊のようであった。
観客の中には本物の銃ではないのかと気づき逃げる準備をしていたものや、火炎放射器の爆発時の焦げる匂いがリアル過ぎると何かとんでもないことが起こっているのではないか。
彼らは撮影した動画をともに掲示板にテロ発生などと書き込んでいたが、途中で書き込みが消され、見たこともない電話番号から電話がかかってきたことにビビり、ヒーローショーを見るだけにとどめたようだ。
自分が片付ける間も無く、しかもデータペースの照合が終わる前に戦闘が終わってしまったと、明らかに残念な表情をする谷口。
近くのおっさんたちは自分がヒーローだったらテロリストを……という妄想を膨らませていた。
「ここに平和が訪れた」
そう言い残して走り去った秋人。
もう出てきたら困ると、足早に会場を逃げ出した。
最初から見ていた人達に、途中からやってきた人達がこれはどんな話だったのか問うが皆うーん、と唸りながら難しい顔をするばかりではっきりと答えたものはいなかった。
それもそうだろう。
素人のアドリブなのだから。
なり行き……。
ストーリーは少々難しかったが子供には派手なアクションが受けたようだ。
戦隊モノのTシャツに身を包んだ生意気そうな子供が、僕も大人になったらマユダーマンみたいになる!
なんて言っているが親がすかさず、あれはなっちゃダメよと注意する。
反面教師にしなさいと言っているあたり、普通のヒーローショーのはずなのになかなかシュールだ。
あんな大人が増えたら日本は終わってしまう。
ヒーローショーがヒーローの逃走という謎過ぎる状況で終わったせいか帰る人がまばらで、結構な人数であるが我先に帰る感じではないらしい。
転がっていたはずの男や怪人、戦闘員に拳銃はいつのまにかなくなっていた。
それからしばらくして人がいなくなった屋上には、脱ぎ捨てられた白いタイツとマユ型のヘルメットが転がっていた。
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翌日、とあるデパートが火事になった。
それは奇しくものちに伝説と言われるヒーローショーが行われた場所であり、たまたま消防が間に合わず建物は完全に焼け落ちたのであった。
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ところ代わり薄暗い部屋。
広いホールはあかり一つさえなく真っ暗である。
ただ中央に鎮座する巨大な円卓の中心、そこに浮かぶ人型だけがキラキラと青白い光わ発している。
『ーーそれで、今回の件だが…』
ホログラムで投影された老人が口を開く。
円卓に座るのは誰も彼もが黒い画面をつけていた。
円卓のそばにだった谷口がカバンから取り出した端末を円卓において説明を始めた。
「はい、まずは机の……『机ではない』
中心で青白く光るホログラムの老人が口を挟む。
うっせえなクソジジイ。歳考えろ。何がアーサーだよ馬鹿か。
てか暗すぎなんだよ。
内心悪態をつきながら説明を再開する。
「円卓にありますお手元の資料をご覧ください」
パラパラと紙をめくる音だけが闇に響く。
暗すぎだろ。あんたら仮面までつけてるが見えてんのか?
とは言わない。
「本日、テロリストの拠点と化していた
デパートを制圧しました。
建物の外からx線による内部把握をしてみたところ地下を含めてかなりの人数がいることが判明。
部隊を送り込んでの制圧は不可能と考え浄化いたしました。
その際、何人か一般人を巻き込んでしまいましたが、証拠は残していないのでおそらくただの出火として処理されるでしょう」
『なるほど、ご苦労……下がって良い』
「はっ、有難き幸せ」
大人しく後ろに下がる谷口は、「有難き幸せの使い方間違ってるよな?この老害まじで意味がわかんないぞ、なんで下がる時にいつも有難き幸せとか言わせるんだ!?」と愚痴を漏らしていた。
『ちょっと待て』
下がって良いって言ったろ?こら。こっちは忙しいんだよ、お前らで好きに円卓ごっこでもやってろ。
普段は耳が悪いくせに悪口だけは聞こえるんだよなぁ老人って。
めんどくせぇなぁ
と毒づきながら振り返る。
「はい、何か?」
『……情報は誰からだ?』
は?主語をいえよ、わかるかアホか。
情報?あー、うちの親父がな老人は悪口だけに鋭いとか。
ま、冗談は置いといて答えてやるとしますか。
「あーはい、あれは五味秋人が見つけたもので……」
『ふ、ふははは。奴がか』
そうです奴がですよ。
当時はもっとまともだったあんたをアーサー狂いの狂人にしてしまった男のおかげですよ。
しばらく笑ったあと、あれはまだ肌寒い……と何か語り出し老人を無視して谷口は闇に溶けるようにホールから逃げ出したのであった。
読んでいただきありがとうございます^ ^
ヒーローショーの話はこれて終わり、次回はまた新しい話になります。
今回の話を軽くまとめると、
金に困った主人公がなんとなく受けたヒーローショーのアルバイトでアドリブでやっていたら色々勘違いが起きた。イカレタ主人公が少女を殴ろうとしていることに気づき正義感に駆られたテロリストが主人公と戦い運の差でぼろ負け。
なんか最初から最後までただのショーだと思っていた大半の人間によら面白いショーだと拡散。マユダーマンが有名に。
デパートにテロリストがいたのは怪しい上、武器を持っていたのに警備意が注意しないのは変だと思った国の組織が調べた結果、テロリストの基地だった。
部隊を送り込んでの制圧は無理だし面倒いから燃やした。
って感じです。
章の名前のとおり、本章は鬼畜っぷりを前面に出します。
タグの主人公クズはフリじゃなくてガチです、
最高にタチが悪い主人公をこれからも応援よろしくお願いします^ ^