魔法学校 1日目
あたしを乗せた馬車は、魔法学校の門を潜り抜け、校舎風の建物の前で停まった。
馬車の扉が開かれたので、馬車から降りる。
「ようこそおいでくださいました。」
そういって深々とお辞儀をされる。
5歳の子供にする反応じゃない……。
あたしが貴族の娘だから?
まさか、貴族らしい振る舞いをしないといけないの!?
ど、どうしよう、緊張してきた。
「貴方様のルームメイトとなります。クレイと申します。」
「ふぃーねりあ・ふぉれしゅです。よろしくおにぇがいしましゅ。」
クレイさんにお辞儀をする。
か、噛んだっ
5歳だし、大丈夫だよね。
貴族としてはダメ?ガッカリされてたりしない?
恐る恐る顔を上げると、クレイさんは微笑んでいた。
よかったぁ……
「早速ではありますが、校内をご案内します。」
クレイさんは、そういって扉を開ける。
ここは校舎であっていたみたい。
クレイさんが扉を開けてくれているので、続いて中に入る。
「ここは、昇降口になります。こちらで、上履きに履き替えていただきます。」
「わかりました。」
元いた世界と言葉が同じ。流石ゲームの世界。
「この下駄箱がフィーネリア様の靴を置く場所になります。この上履きに履き替えてください。」
クレイさんが下駄箱から上履きを取ってくれる。
自分で上履きに履き替えて、靴を下駄箱に……
と、届かないっ
「んーー!」
もうちょい、もうちょっと!
「フィ、フィーネリア様っ。私がやりますので」
そういって、クレイさんが私の靴を下駄箱に置いた。
「ありがとうごじゃ、ざいます。」
また噛んでしまった。
クレイさんは信じられないものを見るようにあたしを見ている。
しまった。貴族は普通、自分でやらないんだった。
「フィーネリア様がお使いになられる下駄箱の場所は、変えておきますね。」
気づいた時にはクレイさんはまた微笑みを浮かべていた。
「次は、教室にご案内します。」
あたしも気を取り直して、廊下を歩き始めたクレイさんについていく。
ーーーーーーーーーー
廊下、長い!
凄く長く感じる。
教室まで遠い。
クレイさんは、難無く歩いているから、5歳児にはきついってだけかもしれない。
もうダメだ……
ちょっと歩くのをやめて、息を整える。
そんなあたしに気づいたクレイさんが慌てて戻ってくる。
「申し訳ありません!」
顔を真っ青にしたクレイさんが震えていた。
「だ……じょ…」
大丈夫と言いたいのに、全然言葉にならない。
「本当に申し訳ありません。」
頭を下げたクレイさんの声も震えていた。
あたしが貴族だからといって、クレイさんに何もしないのに。早く誤解を解かねば!
「だい、じょ、ぶ、です」
細切れだけど、何とか伝わったようで、クレイさんが顔を上げる。
「す、こし、やす、む」
息も絶え絶えにそういうと、クレイさんは固い表情で頷いた。
「大変申し訳ありません。」
あたしの息が整った時、クレイさんにまた謝られた。
「だいじょうぶです!」
精一杯笑みを浮かべてそういうと、クレイさんは自嘲気味に笑った。
そんなに気負わなくてもいいのに……。
彼女が幼い子供に慣れていないのは、仕方のないことなのだから。
魔法学校に入る子供達は皆、10歳前後だと調べてわかっていた。
魔力が発現したら、極端に人と接することができなくなる。魔力の暴走を恐れる人が多く、魔力持ちは閉じ込められたりする。
身内から魔力持ちが現れたと知られたくない人がほとんどなのだ。まだ魔法が一般的でない以上、分からないから怖いのだと思う。
だから、年下の兄弟姉妹ができたとしても関わることがない。
魔法学校に来る年下の子は、10歳前後。
当然、5歳児の扱いなんて分かるわけがない。
だから、彼女が気にすることはない。
「くれいさま、ほんとにだいじょうぶだから。きにしないで。」
そういうとクレイさんは驚いた顔をして、泣きそうな顔になった。
泣かせちゃう!?
となったのも束の間、クレイさんは元の微笑みを浮かべていた。
「敬称は私に必要ありません。クレイとお呼びください。」
「クレイ?」
「はい。フィーネリア様。」
「あたしも、ふぃーねってよんで。」
あたしだけ呼び捨てなのは、嫌だったのでお願いする。
クレイはまた驚いた顔をした。
「フィーネリア様は、「ふぃーね!」
フィーネ様は「ふぃーね!」
フィ、フィーネ……」
クレイに何とかフィーネ呼びをさせて満足していると、クレイがくすくすと笑い出した。
「フィーネは、普通の貴族と違うのですね。」
今日見た中で一番の笑顔をクレイはしていた。
あたしは、この世界で初めて友達を作ることができたかもしれない。
クレイに抱っこして貰い、校舎の案内は無事に終わった。
クレイ視点のお話もいつか書きたいと思っています。