プロローグ
突然ですが、あたしは死にました。
死んだはずなのですが……
気がつくと赤ちゃんになってました。
ほっぺたもぷにぷにで、手も小さくて、言葉も話せない、視界もおぼろげ。
え、どういう状況なの??
はじめは困惑しましたが、どうやらあたしはゲームの世界にやってきたようです。
友達がハマっていた乙女ゲームというものらしい。
タイトルも何もはっきりと思い出せないけど、確かなことはひとつ。
あたしが悪役に生まれ変わっていること!!!
――――――――――
「フィーネは可愛いねぇ〜」
父親は、そういってだらしなく頬を緩ませている。
この世界でのあたしの名前はフィーネリア・フォレス。
貴族であるフォレス家の長女。
まだ5歳になったばかり。
「おとーさま」
だから抱っこをせがんでも問題なし。
父親に向かって両手を上げて、抱っこしてのポーズ。
これだけで父親は嬉しそうにする。
父親に抱っこされて、父親はどこかに歩みを進める。
進む先に気づいて、あたしはちょっと身構える。
色々な花が育てられている温室に入る。
父親は目当ての人を探して歩く。
そうして、目当ての人物を発見した。
「ローゼ、体調はどうだい?」
その声に、母親は笑みを浮かべながら振り向いた。
「大丈夫ですわ。」
と告げるとあたしの存在に気づいて顔を顰める。
「その子を連れて来たのですか。」
母親は、あたしを嫌っているらしい。
「ああ。フィーネと過ごせるのも残り少ないからね。」
父親は寂しそうにそう言った。
母親があたしを嫌いなのも、父親が寂しそうにするのも、あたしが魔力持ちであるが故のこと。
本当は、魔力持ちであると分かった時点で、あたしは魔法学校に入れられるはずだった。
貴族に生まれた為に猶予が与えられたと聞いている。
乳母もつけられないと、両親は頭を悩ませたらしい。
両親の苦労を知っているからこそ、あたしは大人しくしていた。
母親にはそれが不気味だったらしい。
母親は、本来物心つくような歳頃には指一本触れてこなかった。
そんな親子関係のまま、あたしが魔法学校へ行く日がやってきた。
――――――――――
魔法学校は、国が管理する魔力を持った子供達のための学校。
全寮制であり、魔力持ちを閉じ込めておくためのものだった。
あたし、フィーネリア・フォレスはこの学校で女ボスみたいな立場になり、16歳の頃転入してくるヒロインを虐めるという役所だったはず……
魔法学校からの迎えの馬車を待っている間、ついつい暇で考えてしまう。
まだ5歳だけど学校に入ってからボスになるまでの経緯は全く分からない。
ボスになる気はないし、どうしようかと悩んでいると
自室のドアがノックされた。
「はい。どなたですか?」
珍しいこともあるものだとドアを開けると
そこには母親がいた。
あたしが驚いていると母親はあたしの目の前にしゃがんであたしを抱きしめた。
「フィーネリア。私達の可愛いフィーネ。」
母親は泣いていた。
魔法学校に行くということは、生涯家族に会えないと言われている。
魔法学校を卒業しても国に職務と部屋を与えられ、そこから抜け出すことはできない。
あたしとの、別れを惜しんでくれているのだろうか。
「あなたを手放す日が来ることが辛くて、あなたを遠ざけてしまった母を許して…」
涙声でそういう母親にいっそう強く抱きしめられる。
「愛しているわ」
抱きしめるのをやめて、あたしの頬を撫でながら、泣き笑いしながらそう告げる母親。
あたしも涙を流していた。
「おかーさまぁ…!」
今度はあたしから抱きついて声を上げずに泣いた。
「どうか、魔法学校に行っても元気で。」
「はぃ…はい!おかあさま」
その後、迎えの馬車がやってきて両親との別れを惜しみながら
私は魔法学校に入学しました。
初の連載形式小説です。
不慣れなので、掲載は不定期になります。
ご了承ください。