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92.OLだけど、前世は異世界の大魔導師(♂)だったらしい その2

一部、過去掲載分の文章を再掲しております。

 櫻子は第一印象通り、人懐こく話好きの女性だった。

 工藤も美也子と二人きり時の倍はよく喋る。気安い調子に、美也子もついつい話し過ぎてしまい、慌てて口をつぐむことも多かった。


 ありがたく昼食をご馳走になったあと、駅構内のカフェに移動した。

 今度は自分で代金を払ってアイスカフェラテを購入する。テーブルでは、美也子の対面に工藤と櫻子が並んで座った。

 そこで櫻子は改めて名乗りをあげた。


「今は関西のOL矢吹櫻子だけど、前世は異世界エレグリットの大魔導師、ロー・デザレストってわけ」


 驚きを隠せず、美也子は尋ねる。


「記憶があるんですか?」

「あるよ、赤ん坊の時からね」


 赤ん坊の時から――その言葉に息を呑む。それはさぞ、人生イージーモードだったのではないだろうか。


「そんなにいいものじゃないさ」


 美也子の内心を察したかのように、櫻子は苦笑する。


「周りには、生意気な変人だと思われてたな。それに、性別が変わっちゃったのは全くよろしくない」

「男性……だったんですか」


 自分と同じ境遇に、美也子は目を見張る。


「そうそう。でも人格って不思議なものでね、性別に引きずられてさぁ、化粧やおしゃれも楽しいし、好きになるのは男なんだよ。それでいざ付き合うと、女の本能と男の心がケンカするわけ。結婚なんて、ハタチ前に諦めたよ」


 自嘲気味の櫻子に、工藤が悲しそうな目を向けていた。美也子も同情を禁じ得ない。


「前世の記憶なんて、本当はないほうがいいんだよ」


 櫻子は、クリスデンと同じことを言った。

 そうでしょうね、と言おうとして、デリカシーに欠けるかと慌てて引っ込めた。代わりに質問をぶつける。


「櫻子さんは、この世界の神に会ったことがあるんですか?」

「そだねー」


 アイスコーヒーをすすったあと、どこか聞き覚えのある物言いで、あっさりと肯定した。


「ブログの内容も、全部『あの人』から聞いたことだしな」


 美也子は耳を疑った。

 『あの人』とはまさか神のことだろうか。ということは、ブログの神話の内容は、()()()から聞いた紛れもない事実だということか。


「ま、まるで友達みたいに言うんですね」


 リューと同じだ。彼女も知古のように神々を語り、その性質を罵った。だが、悠久を生き神々と戦ったという彼女ならばまだ理解できる。

 前世の記憶があるとはいえ、一介の人間である櫻子がなぜそんなことを。


「うん。『あの人』とは、小さい頃からずっと話し相手になってたからね。だから私を贔屓してくれてるのさ」

「へえ?」

「私推しってことだな」

「推し?」


 訳も分からず疑問を返していると、櫻子は皮肉気に唇を吊り上げた。横の工藤は、なぜか誇らしげだ。


「私のブログの一番最初、読んでくれたかぁ?」

「はい、神がニートってやつ」

「詳しい内容、覚えてる?」

「ええと、うーんと、生き物を育ててなんとかかんとか……」


 予習を忘れてきてしまったかのような後ろめたさに、声がしぼむ。


「これ」


 わずかに怒ったような声と共に、工藤がスマホの画面を提示してくれた。


**


 昔々、気が遠くなるほどの遥か昔。

 十三人のニートたちがいました。

 彼らきょうだいは、父の権威を笠に着て、毎日毎日ダラダラゴロゴロしていました。


 見かねた父は、彼らに言います。


「お前たちそれぞれに土地をやろう。そこで生き物を育てなさい」


 きょうだいは、競い合うようにして土地が豊かになるよう頑張りました。

 ですが、すぐに飽きてしまいます。

 仕方なく、父は提案しました。


「五百年に一度、育てた生き物の品評会を行う。お前たちの土地の中で、最も優れていると思う生き物を一匹、持ってきなさい」


 それを聞いて、きょうだいは俄然やる気を出しました。


 末の妹を除いて。


**


 スマホの画面を注視する美也子に、櫻子は語り掛けた。


「最後の『末の妹』が、この世界――オーヴィの神」


 神話が今、現実味を帯びる。気付けば美也子は鳥肌を立てていた。


「そして品評会はもうすぐ。末の妹――『あの人』は今まで不参加を決め込んでいたけど、なぜか今回はやる気いっぱいなんだ」


 言葉が見つからない。思考が千々に乱れる。


「品評会に出すのは、各世界で最も優秀な存在。魔導師、戦士、知識人など。もちろん人間以外の種族も可」


 今までの不可解な体験がつながっていく

 もうとっくに理解しているはず。だが、理解したくない。


 櫻子は、己と美也子を交互に指さした。


「『あの人』が今回品評会に出そうとしているのは、私、もしくは君」


 喉が渇き、美也子はカフェラテのストローをくわえて思い切り吸い込む。少しだけむせた。

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