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【完結】JKだけど、前世は異世界の大魔導師(♂)だったらしい  作者: root-M
第五章 悪魔と食事をする時は、長いスプーンを使え
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67.自由という名の快楽を

「どうして?」


 エイミの強固な口調に驚き尋ねるが、口をつぐまれた。目線を逸らし、何かを迷っているようだ。


 話を邪魔されたリューが不機嫌そうな顔になったため、場を和ますついでに美也子は素直に思ったことを言った。


「うーん、全部の記憶を取り戻すのって、私もちょっとイヤだなぁ。だって、クリスデンって変な趣味してそうだし」


 ホクロのある女が好きだとかいう話だけでもショックだったのに、これ以上ディープなことを知りたくはない。

 第一、口達者なようだし、ヘラーのようなお堅い女を落とすような男が、真面目一徹のわけないだろう。


「あ、あなたにクリスデンの何が分かるのよ!」


 予想外にも真由香が噛みついてきた。


「立派で素敵な男だったわ! 変な趣味って何よ!」


 ああ、真由香はクリスデンのいいところしか知らないのだ。美也子は思わず言ってしまう。


「真由香ちゃんはさぁ、男性に理想を抱き過ぎじゃない? 男の人なんだから、絶対にいやらしいことだって考えてたと思うよ」


 美也子は愛奈からの受け売りを知ったかぶりで話す。


「そんなことないわよ! あのクリスデンが有象無象の男みたいに低俗なわけないでしょ!」

「じゃあもしクリスデンが低俗だったら、嫌いになるの?」


 美也子もヒートアップして、いつぞやの愛奈のようなことを言ってしまう。


 すると真由香は、手で顔を覆ってさめざめと泣き出した。まさか年上の女を言い負かしてしまうとは思わず、美也子は焦った。

 女悪魔が近寄ってきて、真由香の頭を撫でる。


「よしよし、蜂蜜ちゃんにとって、クリスデンちゃんは王子様だものね」


 それを見たリューが複雑そうに言った。


「お前の魔女は年のわりに純情だな」

「そこが大好きなのよ~ん」


 美也子は頬を掻き、小さな声でごめん、と謝る。

 だが、間違ってはいないと思う。エイミに手を出さなかったのは立派な話だが、若い頃のことなど予想もつかない。


「ねぇ、このまま『お試し契約』を続けるわけにはいかないの?」


 リューに尋ねると、彼女ではなく、女悪魔が厳しい顔をした。


「それは、この御方をいいように使おうって魂胆かしらん?」

「えっ、あの、そういうつもりじゃ……」


 確かに、試供品だけを延々ともらい続けるのは浅ましい行為だ。

 恐縮する美也子に、リューは難儀そうに説明してくれた。


「我々悪魔には、神との盟約がある。人間と契約せぬ者は、スンヴェルから四日以上離れてはならない、帰還後は月が二回満ちるまで休むべし、というな。仮契約及び試用契約は、『契約』に該当しない」


 そこまで言って、リューの瞳に力が満ちた。


「だが、お前が秩序の崩壊を望むならば、今一度神とやり合ってもいいぞ」


 その言葉に、泣いていた真由香も、押し黙っていたエイミも、一様に驚きの目を向ける。美也子は意味がよく分からない。


「それはダメ~ん。アタシが『お姉さま』に怒られちゃうからぁ、そんな剣呑なこと考えないで~ん」


 女悪魔は膝を折ると、媚びるようにリューの小さな身体に抱き付く。それを意に介した様子もなく、リューは顔の前で拳を作った。


「あの不気味な神使どもを握りつぶし、関門をこじ開け、若い同胞どもに自由という名の快楽を教えてやってもいい」


 心なしか、目がギラギラと輝いている。


「この俺はあんな盟約には反対だったのだ……」


 ぼそぼそと呟くリューの一人称が、元に戻っている。女悪魔が慌てて取り繕う。


「いや~ん、だめぇ、理性的になってぇ~」


 豊満な胸部でリューの頭を包み込んで、美也子に向かって言った。


「まぁ、それくらい元クリスデンちゃんのことを好きになったのねん。こんな偉大な御方にそこまで気に入られたんだから、契約してあげてぇん」


 セクシーな目線を投げかけられ、美也子は戸惑った。それを誤魔化すために、呼び名について抗議した。


「あの、元クリスデンって呼び方、やめてもらえますか?」


 美也子と呼んでもらえたら一番いいのだが、悪魔たちの言動を見るに、あまり人の名前を呼びたがらないらしい。クリスデンは故人のため、問題ないのだと思われる。


「そう? じゃあクリ子ちゃんでいいかしらん?」

「……いや、それはちょっと」

「我が儘ね~ん」

「元クリスデンでいいです……」


 諦念あらわに肩を落としてから、美也子はエイミに向き直る。


「ねえエイミ、何か都合の悪いことがあるなら教えて?」

「そうよ、まさかあんた、何か隠してるんじゃないでしょうね!」


 泣き止んだ真由香が厳しく追随する。エイミは答えない。


「うーん、エイミがそこまでイヤがるならやめようかなー」

「美也子ったら!」


 エイミに甘い美也子に、真由香が怒りを向けた。


「真由香ちゃんだって、私が私のままでいたほうがいいんでしょ? 記憶が戻ったら変わっちゃうかもよ」

「それは、何事もない時の話よ。襲われた以上は、一刻も早く自衛手段を講じないと!」


 真由香の言うことは最もだ。だが、黙秘を続けるエイミを問い詰める気にもなれなかった。


「理由は分からないけど、エイミが黙ってるのは、私のためなんだよね?」


 優しくそう言うと、エイミは一筋涙をこぼした。

 そして口を開く。


「クリスデン様の記憶をすべて思い出すということは、死の記憶を取り戻すということになります」


 ――死の記憶。おどろおどろしいその単語に、眉をひそめた。


「え? 衰弱して死んだんでしょ。……まさか、苦しんで死んだの?」


 エイミは唇を噛んだ。


「いえ、亡くなるときは眠るように。問題なのは、晩年の……『死へ至る記憶』なのです」


 真由香が何かに気付いたようにハッとする。


「まさか、クリスデンの最期の半年間、あんたが誰も屋敷に入れようとしなかったのって」

「……はい。とても、他人様にお見せできる状態ではありませんでした」

「どういうこと?」


 美也子の追及に答えず、エイミは何かを思い出したかのように口元を押さえる。真由香もまた同じように、顎に手を当てて俯く。


 異様な二人の様子に、美也子は冷たい汗をかいた。

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