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【完結】JKだけど、前世は異世界の大魔導師(♂)だったらしい  作者: root-M
第五章 悪魔と食事をする時は、長いスプーンを使え
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57.悪魔、子ども服を着せられる

「ねぇエイミ、三人で外に行こう」


 そう声を掛けると、コップに氷を入れていたエイミの手が止まる。


「わたくしは暑さが苦手ですので、留守番しております」


 声色は頑なだった。


「久々に手を繋いで歩こう?」

「いいえ、どうぞあの子と二人でお出かけ下さい」

「何でそんなこと言うのぉ」


 美也子は情けない声を上げ、エイミの腰にすがり付く。


「私の可愛いエイミちゃん、機嫌を直してぇ~」


 猫なで声を出しながら頬を擦り寄せるが、返ってきたのは冷ややかな声。


「そういえば――クリスデン様も似たような状況の時は、まったく同じことを甘えた声でおっしゃっていましたね」

「うっ」


 全く覚えてはいないが、前世と共通の悪癖を指摘され、恥じ入るしかない。

 百年生きておいて、エイミの機嫌の取り方が下手なんじゃないのか、あの男は。だから、美也子がこうして皮肉を言われねばならないのだ。などと、内心で八つ当たりしてしまう。


 美也子の部屋着の裾を、リューが引っ張った。


「早くしないか。さもないと今日は風呂に入らぬまま眠るぞ」

「その子も、そう言っていますから」

「うーん……」


 この状況は全くよろしくない。

 このままでは母にも叱られるだろう。かつて、母と約束したのだから。『エイミに責任を取る』と。

 万が一エイミが母に美也子の無情を訴えるようなことがあれば、殺される。


「早くしろと言っている」


 再度リューが裾を引いた時、なぜか美也子の心はぴたりと決まった。


「……じゃあ、二人で行ってくるよ」

「……はい。熱中症にはお気を付けて」


 二人の間に、かつてのようなよくない空気が漂う。

 それを静かに振り払い、美也子はリューの手を取って自室に向かった。

 決して苛立っているわけではない。ただ、今はこの可憐な悪魔を優先してやらねばと思った、それだけだ。





 美也子は部屋のクローゼットを開くと、最奥に押し込めてあるクリアケースを引きずり出した。

 中には、フリルのついたワンピースやブランドロゴ入りのシンプルなTシャツ、水玉模様のスカート、刺繍の施されたデニムパンツなど数点が入っている。

 やや防虫剤くさいが、歩いているうちにマシになるだろう。


「お前、そのようなヒラヒラとしたものをわたしに着せるつもりか」


 ワンピースを広げている美也子に対し、リューが苦々しげに声を掛けてきた。


「似合うと思うけどなぁ」


 だが下着がないため、ズボンを履かせた方がよいだろうと思い至る。

 ちょうど、紐入りのショートパンツがある。これならば、ウエストの調整も利くだろう。


「それで、どうやって人間に擬態するの?」


 上着を見つくろいながら尋ねる。


「見ろ」


 短い言葉に振り返ると、そこには髪と瞳を黒く変じさせたリューが立っていた。角も消えている。もともと抜けるように白かった肌の色も、黄色人種に合わせてくれたようだ。

 それでも目鼻立ちがハッキリしているため、日本人とはかけ離れた容姿なのだが、まあ問題なかろう。

 知り合いに見つかったら、外国に類縁がいたのかと驚かれるだろうが、遭遇しないことを祈るだけだ。


「へぇ、その姿も可愛いね」


 頬を緩めながら美也子は素直な感想を述べる。


 結局、ボーダーのゆったりとしたカットソーと、ショートパンツを履かせた。健康美あふれる活発な美少女、といった風体だ。


「似合う似合う」


 本当に妹ができたようで、感無量だ。


 美也子自身もTシャツとキュロットに着替える。ポーチに財布とスマホをねじ込んで肩に掛けた。日焼け止めは、今日は曇っているし面倒だから塗らずともよいか、と思う。


 子供用サンダルは、玄関のシューズクロークの隅に箱ごとしまってある。

 箱を開けて、一度も履いていない理由を悟った。黒色だったからだ。


 今こうして見ると、シンプルで合わせやすいデザインだと思うのだが、小学生の美也子なりに好みがあった。可愛くない、いらないと思ったが、それを口に出すことはタブーだと理解していた。子どもの頭で考えて、ベルトの部分が痛いから履きたくないと母に嘘を吐いたのだった。


 それを今履こうとしている悪魔が、同様に言わないことを祈りながら装着を促す。すると、文句を言わず足を通した。美也子は眼前に跪いて、ベルトを調整してやる。


「これで外出できるね」


 リューに微笑むが、笑みは返ってこない。だが不満そうでもない。


「ご主人様」


 気付けば、気配を察したらしいエイミが廊下に出てきていた。


「じゃあ、行ってくるね。留守番お願い」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 表情はいつものようににこやかだったが、耳が垂れ下がっている。

 たまらず美也子は履いたスニーカーを脱ぎ、エイミに駆け寄った。


「ゴメンね、甘いもの買ってくるから」

「はい」


 美也子は背伸びをすると、エイミの首筋に口づけ軽く皮膚を吸う。ついでに馴染み深い体臭を鼻腔に吸い込んだ。

 あ、と小さくエイミが声を上げた。


「じゃあね」

「は、はい」


 赤くなって俯くエイミを一瞥しリューと共に玄関を出た。


『こんなの、いつの間に覚えたのですか』と聞こえたような気がした。

次回、少し話が進みます。

更新は週末を予定しています。

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