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【完結】JKだけど、前世は異世界の大魔導師(♂)だったらしい  作者: root-M
第五章 悪魔と食事をする時は、長いスプーンを使え
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51.契約 『惰眠を貪るもの』

「えっと、私は初めてを提供するとして、じゃああなたはどうなんですか?」


 美也子は真っ直ぐ悪魔の目を見て言った。

 小柄な悪魔は眉をひそめる。


「何だと?」

「あなたも初めてじゃないと、釣り合わないじゃないですか。私だって、他の人相手にたくさん使われたものはイヤです」


 鼻を鳴らし、不満そうにそっぽを向いてやった。


 処女性を重視されるのならば、こちらだって同じ貞操観念を要求したっていいだろうと思う。今や男女平等の時代なのだから。

 第一、『もの』呼ばわりも気に食わないので、そのまま返してやる。


 それでも屁理屈だと笑い飛ばされるかと思っていた。女と男は違うと。


 だが悪魔たちは、真顔で顔を見合わせたかと思うと、感心したように呻る。


「確かに」

「それは考えたことなかったわん」


 悪魔って意外と素直、というか単純馬鹿かもしれない。肩透かしを食らった気分だ。


「だけどねぇん、特等契約すれば四六時中一緒にいられるからぁ、危険なことからは全部守ってあげられるわよん。それに、十全に力を貸してあげられるからぁ、と~っても強い魔女になれるのよん」


 女悪魔の言葉に、美也子は疑念を抱かずにいられない。

 四六時中共にいられる――それは果たしてメリットなのだろうか。邪魔ではないか?


「記憶と純潔をあげただけでですか? たったそれだけのことで、あなたたちは自分の全てを差し出すと?」

「あらぁ~、『たったそれだけ』って、言うじゃなぁい」


 女悪魔は淫靡に笑った。失言だったかと口を押さえる。

 確かに、『たったそれだけ』は言い過ぎだが、悪魔にとって割が合わないと思ったのだ。


「特等契約は、人族でいうところの婚姻のようなものだ」


 小柄な悪魔が口を挟む。


「肉体が朽ち、魂が輪廻の輪に還るまで共に過ごしてもらう。他の男と交際しようが、子を成そうが構わない。それでも、『真の伴侶』は我々だ。我々と生き、我々と享楽を追求してもらう」

「お互いが全てを差し出し合うということ?」

「そうだ。共にいる間、我々は決して不義はしないし、富を搾取しないし、暴力も振るわない。そこらの男と添い遂げるよりは余程良い目をみさせてやれる」

「性的な意味でもねん」


 と呟いた女悪魔は真由香に叩かれる。


「うーん、でも今はそれは考えられないな……」


 美也子の脳裏にエイミが浮かぶ。全てを差し出したい相手は、今は間違いなくエイミだ。出会ったばかりの悪魔ではない。


「そうか。まあ、すぐに身を投げ出す女も浅慮で好まぬ。身持ちの固さも女の価値だ」


 小柄な悪魔は偉そうにそう言った。

 彼女が何歳なのかは検討もつかないが、十歳程度の顔でそんなことを言われると、笑えてくる。もちろん、堪えた。


「まぁ、ひとまずお試し契約してみたらいいじゃなーい?」


 明るく女悪魔が提案し、美也子は眉根を寄せた。


「お試しって……悪魔契約ってそんなにカジュアルなの?」

「間口を広げて契約してもらいやすくしないとねん」

「うーん、お試しかぁ」


 美也子は改めてクリーム色の髪の悪魔を見た。

 ちょこんと座っている姿は、間違いなく可愛らしい。口さえ開かなければ。


「聡い娘は好きだ」


 などと言って、美也子を見ている。無表情が多少和らいでいる気がした。

 これはどうやら、気に入られたらしい。


 真由香が身を寄せて囁いてくる。


「やったわね美也子。悪魔と契約するときは、言い負かして上位に立つのが基本なのよ。今後有利になるわ」

「そうなんだ」


 可愛い顔の悪魔をじっと見つめる。


「私のこと、守ってくれるの? 話し相手にもなってくれるって」

「そうだな。人間と共に過ごすのは悪くない」

「じゃあ、数日くらいはお試しで一緒に過ごしてもいいかなぁ」


 好奇心が大いにあった。お試し契約では魔女っ子にはなれないようだが、一時的にでも悪魔を使役できるなんて、アニメやマンガみたいで面白そうだ。


「では、心変わりする前に」


 小柄な悪魔が立ち上がる。


「お前の名前は?」

「千歳美也子です」

「そうか、千歳美也子。俺の名前をよく聞くがよい」

「あ、はい」

 

 契約したら、一人称を『わたし』に改めるようにお願いしようと思う。


「我が通名は、『惰眠を貪るもの』だ」

「は、はい、『惰眠を貪るもの』さん」

「真名は、特等契約する場合にのみ教えてやる」

「はい」


 雰囲気に飲まれて神妙な返事をしてしまう美也子。その右手を、悪魔がそっと掬ったかと思うと、甲に冷たい唇が押し当てられた。


 わずかな脱力感が身体を襲う。

 魔力を吸われたのだと本能的に理解した。


「では、よしなに」


 そう言って悪魔は、にやりと笑った。

 ようやく見せた深い深い笑みは、彼女がいかに高齢の存在であるかを推量させた。

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