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【完結】JKだけど、前世は異世界の大魔導師(♂)だったらしい  作者: root-M
第五章 悪魔と食事をする時は、長いスプーンを使え
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50.悪魔契約3ステップ

「お前が、契約希望者か」


 悪魔の口から流れ出たのは、可憐な外見に見合う甘い美声。

 だが年齢を感じさせる落ち着きと高慢さがにじんでいた。思わず息を呑む。


「年頃も、魔力量も申し分ないようだが。契約については詳細を聞いているか?」


 問われて頭を振ると、小柄な悪魔は真由香の悪魔を睨んだ。女悪魔は気まずそうに視線を逸らす。

 その所作で、彼女らの上下関係が把握できてしまった。やはり可愛くないかもしれない。


 幼い悪魔は気怠げに口を開く。


「説明する。――まず仮契約について」

「はい」


 思わず居住いを正して敬語になる。


「呼ぶ際に魔力だけ提供してもらえればいい。こちらの力は三分さんぶほどしか提供できぬが、暴徒から守る程度はできる」

「人恋しいときは、話し相手にもなるわよん」


 女悪魔が補足し、小柄な悪魔が頷く。


「魔力提供の方法は、粘膜接触」

「粘膜接触?」


 耳慣れぬ単語に目をしばたたかせてしまう。

 真由香が咳払いし、解説した。


「く、口づけと言うことよ」

「もしくは血液や肉、体毛でも構わない。目減りするものは勧めないがな」

「なるほど」


 痛いのは御免だ。髪もそんなに頻繁に提供できない。


 幼い悪魔は話を続けた。


「次に本契約だが、これはこちらに決定権がある」

「はぁ」

「まず、お前の記憶を余すところなく見せてもらう。もちろん内容に関して他言はしない」

「ふぅん……」


 悪魔は人間のことを知りたがり、その記憶が甘露となるのだと、以前に女悪魔が言っていた。


「その記憶が興味深いものなら、本契約だ」

「興味深いって?」

「何の刺激もない平坦な人生を送ってきた者などつまらない。品性が下劣な者は論外。潔癖過ぎても好みではない」


 淡々と悪魔は述べた。


「懊悩する者、悲劇的な人生に在る者、努力する者。ほどよく純粋で楽観的な者も悪くない。若いぶん、人生経験も浅かろうからそこは考慮する」

「えーと、私はどちらかと言えば、平凡な人生を送っていると思いますが」


 美也子が疑念を挟むと、悪魔は初めて笑みを見せた。わずかに口の端を吊り上げる、子どもらしからぬ笑み。


「お前は前世の記憶があるらしいな。それで釣りが来るかもしれぬぞ」


 金色の瞳の奥に渇望を感じ、美也子の心を覗くことを期待しているのだと分かった。


「本契約となれば、召喚にはいつでも応じ、提供された魔力に値する働きをしてやろう。だが、この世界には魔力が皆無だ。お前の肉体で生成される魔力を頼るのみとなるため、いささか不自由しそうではあるが。それでもお前の凄まじい魔力量なら、有象無象の魔女たちよりは余程力が発揮できるだろう」

「そうですか……」


 全ての記憶を見せお眼鏡に適えば、晴れて魔女っ子の仲間入りということか。

 だが、自分に『凄まじい魔力量がある』という自覚がないため、どうもピンとこない。それでも、『魔力』という名の謎のエネルギー体を提供するだけならば、契約する価値はあるだろうか。


 いや、他人に決して漏らさないとはいえ、余すところなく記憶を覗かれるというのは、大変屈辱的なことなのではないだろうか。


 思考を巡らせる美也子をよそに、悪魔は言葉を続けた。


「それで、最後に特等契約のことだが」

「それは不要よ! 美也子はそこまで求めてない」


 慌てた様子で真由香が口を挟んだ。


「何で止めるの? ここまで来たら聞いておきたいな」


 小首を傾げる美也子に、傍らで聞いていた女悪魔がにやついた。


「一応説明だけでも聞いておいたらいいと思うわん。いつ気が変わるか分からないのだし、その時に説明を挟むのは雰囲気ぶち壊しだものねん」

「雰囲気?」


 疑問符を浮かべる美也子と、気まずそうな真由香を尻目に小柄な悪魔ははっきり言い放つ。


「お前の『純潔』をもらう」


 すぐに理解できない。


「『純血』? 血のこと?」


 真由香に解説を求めるが、俯いて目を合わせないようにしている。


「まさかその歳で男を知っているわけではあるまいな。記憶を覗くときに改める」


 冷たい声で小さな悪魔が告げる。美也子も意味が理解できてしまった。

 創作物でもよくある話だ。悪魔などの化け物が、処女性を重んじるというのは。


「あなたって、女の子でしょう!?」


 思わず疑問を叫んだ。


「いや、我々は雌雄同体だが?」


 予期せぬ宣告に言葉が詰まる。

 つい、眼前の二人の悪魔を交互に見てしまう。グラマラスな女悪魔にも『ついている』ということなのか。


「信じられんのか。――見るか?」


 突如、小柄な悪魔が立ち上がった。真由香が慌ててしがみつき、腰紐をほどこうとする手を阻止する。

 そのまま強引に座り直させた。


「待って、美也子には刺激が強すぎる。十五歳の女の子なんだから、忖度しなさいよ」

「十五歳だからよいのだろうが。清い肉体の間でなければ特等契約はできぬぞ」

「ど、どうして純潔でなければならないの?」


 美也子が純粋な疑問をぶつけると、悪魔は常識を諭すように答える。


「女が他者に与えうるものの中では、一生に一つしか持ちえない稀有なものだからだ。それを捧げる献身で、こちらも契約者の覚悟を測り知ることができる」

「そんなもんですか」


 覚悟を測る――それなら納得できなくもない。頷きかけたその時。


「――それに、他の男が使ったものを俺は使いたくない」

「ええっ!?」


 驚愕に仰け反る。

 なんと凶悪で明け透けで身も蓋もない言葉だろうか。

 しかも今、この可憐な悪魔は『俺』と言った。


 助けを求めるように真由香を見ると、初心な少女のように頬を染めていた。

 確か真由香の悪魔は、彼女は処女だと言っていた。


 だが、この場でもっとも若く純粋なはずの美也子は、照れて言葉を喪失しはしなかった。

 悪魔の物言いに理不尽なもの感じ、少し意地悪してみたくなったからだ。


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