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【完結】JKだけど、前世は異世界の大魔導師(♂)だったらしい  作者: root-M
第四章 15歳、思春期、何も起きないはずもなく
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44.いつもよりも強く、反るほどに立っていた

「あの、その」


 赤い顔のまま、エイミの視線がさ迷う。

 いつの間にかお互い正座していた。


「わたくしにも、道理をよく知らない時期がありました」

「う、うん」


 美也子は神妙に頷く。


「その頃……クリスデン様の周りの方々が、わたくしにこう言いました。――あのかたを悦ばせたければ、夜中に裸で寝所に忍べと」

「う、うん」


 心臓が口から飛び出そうだ。


「そうしたら……」

「そうしたら?」


 美也子は唾を呑み込んだ。


「ひどく怒られてしまいました」

「怒られた?」


 ぽかんと口を開けてしまう。


「わたくしは、その言葉の意味するところを理解していませんでした。皆様にからかわれていたのです。殿方は裸にした女性に痛みを与えるのが好きなのだとうそぶかれて」

「そ、それはひどい」


 からかわれていた、で済む話なのだろうか。性の知識のない女の子にそのようなことを言うなんて、悪意があったのではないか?


「ものすごく怒られました。あんなにお怒りになったクリスデン様を見たのは初めてでした」


 だが、怒られたという割にはどこか嬉しそうである。彼女のこういうところは、理解に苦しい。


「何で怒ったの?」

「わたくしが、己の身体を粗末に扱ったからです」


 その言葉は、美也子の胸に刺さった。

 やはりあの男は、年下の少女に手を出すようなことはしなかった。それどころか、その身体を案じていた。なんと立派な男だったのだろう。


 いや、安心するのはまだ早い。

 『道理をよく知らない時期』を過ぎた後はどうだったのか、まだ聞けていない。


「それって、エイミが子どもの頃の話でしょ? 大人になって、一緒にお風呂に入った時は?」


 元に戻っていたエイミの頬の色が、再度朱に染まる。


「あのかたは、決してわたくしに欲望を向けては下さいませんでした」


 残念そうな響きを聞いて、分かってしまう。エイミがそれを期待していたことを。

 それは、少しどころではなく、悲しい。


 愛奈の言葉を思い出す。

 女性もまた、そういう気持ちになるのだと。


「背中を洗って下さる時も、掛布を渡されて。浴室で全裸で戯れることなど、有り得ませんでした。ですから、ご主人様とはそれができて、今は本当に嬉しく思っています」


 『今は本当に嬉しい』。その台詞に、美也子は照れて頬を掻いた。――いやいや、『全裸で戯れる』って一体何のことだろう、戯れたことなどあっただろうか。


「それに……」


 エイミは口ごもった。しばしの沈黙の後、小声で言う。


「どちらにしろ、わたくしと出会った頃には、クリスデン様には男性機能がなかったのです」

「だ、男性機能がないって、どういうこと」


 思わずオウム返しに問うてしまい、後悔した。美也子は、その意味をとうに知っているはずだ。


 エイミは、ひどく困ったような表情をした。

 そこに表れているのは、まぎれもない恥辱だった。そんな顔は初めて見る。


「あの、説明致しますので書くものをお借りできないでしょうか」

「わー! ゴメン、なんとなく分かったから!」


 何を書く気なのかは分からないが、そんなことをさせるわけにはいかない。


 動揺が落ち着くと、エイミは小さく長く息を吐いた。

 その仕草があまりに艶めいていて、美也子は見入ってしまう。


「そんなあのかたと比べたら……ご主人様はとても積極的でいらっしゃる」


 今のエイミを表す言葉は、間違いなく『うっとり』だった。控え目だが熱を帯びた視線が、美也子を焦がす。


「せ、積極的って」


 すぐには意味が理解できなかった。だが、過去にエイミにした行いを反芻してみれば、大量の心当たりが見つかった。

 散々身体を触って突いて、エイミが悲鳴を上げると嬉しくなって増長した。

 そのことを、言われているのだ。


 それは『女同士のコミュニケーション』ではなかったのだ。美也子はそれを言い訳に、エイミに若い欲望をぶつけていた。

 あまりの恥ずかしさに、美也子はこの場から逃亡したくなった。


「ご主人様はお若いですもの。当然のことです」


 身体を寄せてくるエイミの顔を見ることができない。


「ですから、クリスデン様がもっと若い時期に知り合っていたら……そうなっていたでしょうね」

「ゴメン、私ってば……。エイミを……」

「謝罪されることなどありません。ご主人様に身体を触れられ、イヤだと思ったことなどただの一度もございません。むしろ、心から嬉しく思います」


 高熱が出ているのではないかと思うほどに熱い頬に、エイミの指先が近付く。


「お許し頂けるのなら、わたくしからも……もっと色々な場所に、触れたく存じます」

「ゆ、許すも何も、エイミの好きにしたらいいよ……」

「それでは下僕の立場がありません。どうぞ、ご命令なさって下さい」


 美也子は唇を噛んだ。羞恥が動揺を誘い、脳の動きを停止させる。色々な場所とは、具体的にどこのことなのだろう。


「さ、触っていいよ」

「それは命令ではありません」

「な!!」


 どうしたことか、今日はエイミが美也子を弄んでいる。


「エイミの隠れドS!!」


 美也子はエイミに飛びついて、ベッドに押し倒そうとした。だが、びくともしない。


「かくれどえす、の意味が分かりません」


 脇の下にエイミの手が入って来たかと思うと、幼児のように抱き上げられ、正座するエイミの膝の上に乗せられた。

 前々から、細い癖にやたら力持ちだなと思っていたが、想像をはるかに超える剛腕だったようだ。


「さあ、どこでも構いません。触れとお命じ下さい」


 エイミは妙にニコニコしている。獣の耳がいつもよりも強く、反るほどに立っていた。


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