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【完結】JKだけど、前世は異世界の大魔導師(♂)だったらしい  作者: root-M
第四章 15歳、思春期、何も起きないはずもなく
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40.今度は、あたしをドキドキさせてね

 及川とキスできるか――考えたこともなかった。だが、付き合うのならば当然その問題が生じてくる。


 混乱し返答できないでいると、愛奈の厳しい声が続く。


「キスの先は? 高校生だからまだ早いなんてことは、絶対ない。及川くんだってそんなこと絶対言わないよ」


 及川とキスや、ましてその先のことをするなど、現状では到底受け入れることはできない。

 だがあの温厚な男の子が、嫌がる美也子に対して強引に事を進める姿を想像することもできなかった。

 ドラマの中のような肉食系男子なんて、実在していたらただの性犯罪者だと思う。


「絶対言わない……かなぁ? 無理強いするような性格じゃなさそうだけど」

「美也子は男の子のこと分かってない!」


 声を張り上げた愛奈に驚く。


「彼女が欲しいなんて、そういうことがしたいからに決まってる!」


 生々しさを感じさせるその言葉に息を呑む。


 美也子のわずかな怯えを悟ったのか、愛奈は声音を落ち着かせる。


「もちろん、やらしいことだけが目的の男の子ばかりじゃないよ。及川くんだって、そうだと思う。手を繋いだり、プレゼント交換したり、一緒にテレビ見たりしたいって思ってるはず。でも、身体の関係も持ちたいって絶対に思ってる」


 愛奈からは、いつもの間延びしたような喋り方が消えていた。


「そういう気持ちは、別に軽蔑するようなことじゃない。若い男の子なら、当たり前のことだ。女の子だって、そういう気持ちになるよ」

「愛奈……」

「でも、そういうことを理解できないうちに、好きでもない男の子と付き合ったりしたら絶対にダメ。絶対に傷付く。――美也子も及川くんも」


 真摯な愛奈の助言は、美也子の心に強く響いた。


「うん、愛奈の言う通りだ」


 素直に頷く。


「偉そうなこと言ってゴメン……。美也子、ムカついてない?」


 泣きそうな目をする愛奈に向って、笑みを見せる。


「そんなわけないじゃない。分かりやすく教えてくれて、納得いったよ。及川くんのことは、もっと慎重に考える」

「それがいいよ~」


 愛奈も笑う。だが。


「及川くんと遊んだ時、愛奈が邪魔しに来たのは、何も分かってない私を心配してのことだったんだね」


 美也子がこう言った時、愛奈から笑顔が消えた。


「そういうわけでも、ないんだけどね」


 愛奈はそう小さく呟くと、湯の中に鼻まで沈み込み、気泡を発生させた。

 照れているのだろうか。

 だが、人生経験豊富な友に賞賛を送らずにはいられない。


「やっぱり愛奈は大人だなぁ、本当にすごい。前世の経験もあるからかな?」


 すると愛奈は湯から顔を出した。


「魔精だった時は、そんなに難しいこと考えてなかったよ。だって人間とは性質が違うんだもん」

「そうなんだ?」

「毎日おもしろおかしく生きることしか考えてなかった。でも、いざ人間になってみると、社会は複雑だし人間関係も大変。相手のことを思い遣って、きちんと考えながら行動しないと、自分も周りも不幸になる」


 愛奈は遠い目をした。元恋人のことを思い出しているのだろうか。


「えへへ、重い話はもうなし。洗いっこしよう」

「いいよ」


 愛奈の提案を受け入れ、じゃんけんした。

 負けた愛奈が、先に洗われる方になる。普通逆じゃないかな、と思った。


 細い愛奈の身体を洗ってやっていると、エイミのことが脳裏に浮かぶ。

 今頃、寂しい思いをしていることだろう。一人では背中の毛を洗えない。

 いや、母が洗ってやっているのかもしれない。それを想像すると、かつてのように嫉妬の念が湧く。

 エイミを放置して遊びに来た美也子には、嫉妬する権利などないのに。


「美也子?」


 背中を擦る手がつい止まってしまい、愛奈の声が掛かった。


「あ、ええと、もっと運動したら愛奈みたいな身体になれるのかな、って思って」


 それは誤魔化しと本音が半々だった。いや、本音の方が割合が大きいかもしれない。


「あたしみたいな身体って、何?」


 愛奈がくすくすと笑う。


「えっと、なんか見ててドキドキする身体」


 すると愛奈が思い切り振り向いた。目を輝かせている。


「あたしの身体見て、ドキドキしてくれるんだ!」

「う、うん」


 頷くと、満足そうに笑って体勢を戻した。


「あたしだって運動してないよ。単純に、発育の差だと思うな~」

「そうかな?」

「うん。子どものうちは差が出ちゃうけど、きっとあと数年もすれば、胸の大きい美也子の方が女性らしい身体になるよ」

「えー? そうかなぁ」


 手を動かしながら首を傾げる美也子に、愛奈は明るい声で続ける。


「うん、絶対にそう。その時が楽しみだな~」

「楽しみなの?」

「今度は、あたしをドキドキさせてねっ」


 再度愛奈が振り返る。その笑顔が、眩しかった。





 予定通り九時過ぎに愛奈の父が帰宅したため、晩酌中のところにお邪魔して挨拶する。


「愛奈、今日はお帰りのチューはしてくれないのか?」


 娘の友人が遊びに来ていると知ると、父親はそんな冗談を言う。


「んもう、そんなの何年も前からずっとしてないでしょ!」


 父親を軽く殴打する愛奈に、それを見て柔らかく笑う愛奈の母親。

 その団欒風景は、美也子には決して手に入れることができないものだ。少し、切なくなる。


 その後、愛奈の部屋で音楽を聴きながら一緒にファッション誌を眺め、マンガを読み、とりとめのないお喋りをした。


 深夜十二時を回ったあたりで、美也子は船を漕ぎ始めてしまう。

 それを見て、愛奈が残念そうに睡眠を促す。もっと夜更かししたかったようだ。


 美也子は愛奈とベッドに並んだ。愛奈が一言二言話しかけて来るが、返答がおざなりになり、気付けば意識が飛んでいた。

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