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【完結】JKだけど、前世は異世界の大魔導師(♂)だったらしい  作者: root-M
第四章 15歳、思春期、何も起きないはずもなく
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37.カップルみたいだね

 愛奈が千歳家に遊びに来たその翌週金曜日、約束通り美也子は佐原家へお邪魔することになった。


 一度帰宅して、着替えて荷物を持つ。

 エイミはもう止めることもなく、いつものように行ってらっしゃいませと一礼して見送ってくれた。


 近所のコンビニまで愛奈の母が迎えに来てくれる。

 毎度毎度、申し訳なく思う。手土産として、近所の洋菓子店のロールケーキを渡した。


 愛奈の部屋にバッグを置いて、『これからどうする?』と聞こうとした時、勢いよく抱き付かれた。


「今日は来てくれて嬉しいよ~」


 テンションが高いさまが伝わってくる。

 頬擦りされると、愛奈のショートボブが肌をくすぐったため、身をよじる。


「今日一日、美也子があたしの部屋にいるなんて夢みたい」

「んも~、大袈裟だなぁ」

「そんなことないよ~。お風呂一緒に入ろうねっ」

「いいよ」

「ホントに!?」


 愛奈が大きな瞳を輝かせる。

 他人の家のお風呂は勝手が分からないから、一緒に入った方が効率がよいだろう。


「昨日のドラマ、まだ観てないよね? 一緒に見よ~」


 愛奈に促され、一階のリビングへ向かう。

 美也子の家のそれよりも広大なリビングに、家電量販店でしかお目にかかったことのない大きなテレビが据えてあった。


 愛奈の母親がキッチンで手を動かしている。


「あの、何かお手伝いすることはありますか?」


 義理半分ではあったが、そう伺ってみると大笑された。


「愛奈、今の聞いたぁ? あなたそんなこと言ってくれたことないじゃない! 美也子ちゃんったら、偉いわぁ」


 不服そうな顔をする愛奈は美也子の腕を引いた。


「美也子は今日お客様なんだから、何もしなくていいの!」

「そうそう、お客様にお手伝いさせるわけにはいかないわよ。この前この子が迷惑掛けちゃったお礼なんだから。くつろいでいてちょうだい」


 うふふと笑う母親のお言葉に甘えることにして、リビングのソファに腰を沈める。

 早速愛奈がリモコン操作を始めて、間もなく機器が起動した。

 千歳家にあるものよりも、だいぶ起動が早い。テレビの大きさと言い、羨ましい限りだ。


 映像が始まったと同時に、横に座った愛奈がぴたりと身を寄せてきた。

 ソファの上に体育座りして肩を密着させ、何気なしに膝の上に載せていた美也子の手を取る。指の間に、愛奈の長い指が絡んだ。


「カップルみたいだね」


 耳朶に囁かれ、戸惑う。

 お母さんが見ているじゃないか。だが、女同士だからまぁ問題なかろう。


 ドラマは、人気女優と男性アイドルグループのメンバーが出演していることで話題になっているものだ。

 アラサーのキャリアウーマンが五つも年下の部下に惹かれていくというストーリーで、年齢や立場を気にしてなかなか進展しないもどかしさと、部下役のアイドルがたまに見せる肉食性が見どころである。


 観賞中も、愛奈は身体を密着させてきていた。

 少し肌が冷えているようだ。エアコンが効きすぎていて寒いのだろう。

 ならば、熱を分けてやるのも友人の務めだ。


 愛奈の低い体温を感じながら、美也子はふとエイミを思い出す。

 エイミも、美也子がテレビに集中している時は、こんなふうに身体を預けてくる。もちろん母の不在時限定だが。

 エイミは愛奈と異なり、体温が高い。今の時期は汗ばんでしまう。だが、それは決して不快ではなかった。

 彼女の体温と体臭が恋しくなる。


 自分の意思でお泊り会に来ておきながら、心と身体は獣耳の少女を求めている。

 半身が喪失してしまったような寂しさに、気付けば、美也子からも愛奈に身体を寄せていた。


「あ、ゴメン」


 無意識下でしてしまった行動に、思わず謝る。


「変な気分になったの?」


 ニヤニヤと愛奈が聞いてくる。

 画面の向こうでは、部下役の男が主人公に強引なキスをしていた。


「違っ、そうじゃないよ」

「ふーん。……美也子はああいう肉食系男子どう思う?」


 CMに入ったため、愛奈は遠慮なく話し掛けて来る。


「えー? うーん、あれは両思いだから許されるだけでしょ」


 素直な感想だった。


「美也子は身持ちが堅くていいなぁ」


 美也子の答えを聞いて、愛奈は満面の笑みを浮かべる。

 意図がつかめず、思わず聞き返す。


「どういうこと?」

「安心ってことだよ」

「何が?」

「変な男に引っかかったりしなさそうで安心ってこと~」


 正解を当てた子どもにするように、頭を優しく撫でられる。

 首を傾げていると、キッチンから愛奈の母親が茶化した。


「愛奈ったら、そんな保護者みたいなこと言っちゃって」


 それを聞いた娘は、えへへと笑う。


「ほら、ママは夕方のニュースが見たいから、続きは夕飯後に観てちょうだい。少し時間かかるから、部屋で時間を潰してらっしゃいな」

「はぁ~い」

「ゴメンね、美也子ちゃん」

「いえ、とんでもない」


 友人宅のルールに従うのは当然のことだ。文句などありはしない。


「今日はゲストでママの好きな俳優が出るんだ。ほら、YUKITOっているじゃん」


 愛奈がこっそり耳打ちしてきた。

 くだんの俳優は、まだ二十代前半。若者に熱を上げる愛奈の母の活気が微笑ましい。


 愛奈に腕を引かれて、二階に戻る。

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