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【完結】JKだけど、前世は異世界の大魔導師(♂)だったらしい  作者: root-M
第四章 15歳、思春期、何も起きないはずもなく
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36.牽制、宣戦布告 その3

 十八時前に、愛奈は帰宅の意を告げた。


 千歳家で夕飯を食べたらどうかと誘ったが、今日はカレーだからと断られた。その気持ちは、とてもよく理解できる。


 『ウサギ事件』のすぐあと、場所をリビングに変えて、三人でたくさんお喋りをした。

 くだんのウサギは、命じたらあっさり元の置物に戻ってくれたので部屋に放置してある。


 愛奈からエイミに会いたいと言われた時は、てっきり異世界の話でもするのだろうと思っていた。

 だが愛奈の口から出たのは、とりとめのない話ばかりだった。


 美也子と最初に出会った時のこと、高校での面白いエピソード、真由香と結託して及川の邪魔をした話など、最近のことだけ。

 しかも美也子が主軸の話ばかりで、いささか恥ずかしかった。

 愛奈はただ、ガールズトークがしたかっただけなのだろうか。


 そしてエイミは、美也子の指示をすっかり忘れてしまったのか、『ご主人様』とたびたび愛奈の前で言う。

 美也子はその単語が出るたび、気恥ずかしさで冷や汗をかいた。

 今日のエイミは一体どうしてしまったのだろうか。どこかおかしいような……。

 

 何より――エイミと愛奈、二人の間に漂う空気もまた、どこか異様だ。

 それは愛奈と真由香の時のものと似ているようで、何か違うな、と感じる。だが具体的にどう異なるのか、まったくつかむことができない。


「じゃあまた明日、学校でね~」


 スニーカーに踵を押し込みながら、愛奈は別れの挨拶を述べた。近所まで母親が迎えに来てくれるとのことだ。


 エイミと並んで彼女を見送る。


「下まで送ろうか?」

「大丈夫、大丈夫。今日は、本当にありがとねっ」


 丁寧に礼を言う愛奈の笑みが、不意に消えた。


 再度口角が吊り上がった時、その瞳が一瞬金色に輝いた気がした。


「愛奈?」

「ねぇ美也子。来週末、うちに泊まりに来てよ」


 唐突なお誘いに、戸惑う。


「え? 迷惑じゃない?」

「そんなことないよ。うちのママも、早く美也子ちゃんをご飯食べに連れて来なさいって、うるさいの。それならいっそ、お泊まりして、マンガ読んだり、お喋りしたりして、夜更かししようよ~」


 目を細めて、にっこりと笑う愛奈。その目が開かれた時、視線はエイミに向けられていた。


「エイミちゃん、美也子を一晩、ううん、二晩でもいいの、借りてもいいよね?」


 やけにゆっくりとした物言い。


「はい、ご主人様のなさりたいようになさって下さい」


 エイミが腕を絡めてきた。まるで蛇が獲物を捕らえるかのように強く絞めつけられ、驚く。


「夏休みになれば、わたくしは毎日一緒にいられますから」


 エイミの言葉を聞き、愛奈の笑みが深くなった。


 ――あれ、何だか空気がおかしい?

 そう思って、エイミと愛奈を交互に見る。二人とも、満面の笑みを浮かべていた。


「うん、じゃあ、今度泊まりに行ってもいいかな?」


 断る理由もないため了承する。

 エイミに寂しい思いをさせてしまうが、彼女の言う通り、夏休みに入れば朝晩共にいられるのだから。


「やったー! ママにも言っとくね。じゃあ、また明日!」


 そう早口で言うと、愛奈はドアを開けて出て行った。

 ロックを掛けていると、背後からエイミの不満げな声が掛かる。


「あの……ご主人様。本当にお泊まりに行かれるのですか?」

「え?」


 訝しげに振り返り、表情を窺う。

 エイミはもじもじしている。


「もしかして、行って欲しくない?」

「だ、だって、あのかたは……」

「愛奈が何?」

「あのかたは、魔精ですから……」

「だったら何なの?」


 意図がつかめず、尋問するような口調になってしまう。


 エイミの獣耳が垂れ下がった。

 すぐに意を決したように顔を上げ、エイミははっきり言い放つ。


「わたくしが行かないで下さいとお願いしたら、聞き届けて下さいますか?」

「……どうして?」


 美也子には、エイミの気持ちが分からない。

 異性である及川の誘いは薦めたくせに、友人である愛奈との交流は阻止するというのか?


 表情に険が出てしまったのだろう。エイミが泣きそうな顔をした。

 しまったと思い、背伸びしてその頭を撫でてやると、そっと身を預けてきた。


「わがままを言って、申し訳ありません。どうぞお出かけ下さい」

「うん……」


 約束してしまった以上は、行くのが道理だと思う。それに正直なところ、友達の家にお泊りなんて楽しいイベントを逃したくはない。


「一泊で帰って来るし、夏休みになったらずっと一緒にいられるよ。だから、我慢できる?」

「はい」


 エイミの声は、震えていた。


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