表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】JKだけど、前世は異世界の大魔導師(♂)だったらしい  作者: root-M
第四章 15歳、思春期、何も起きないはずもなく
32/116

32.暗黒の思考

しばらく重い話が続きます。

不快に思う表現、描写も多々あるかと思います。


雪解け回は準備しております。


 高校は一学期期末テストの期間に入った。


 一週間前にはまだ余裕があったものの、いよいよ明日からとなった日曜日には、すっかり追い詰められていた。


 美也子はイライラとしながら机に向かう。

 集中することは昔から苦手だった。しかも高校の授業内容は中学の時のそれを凌駕する難しさだ。


 気分転換にスマホでSNSを閲覧する。普段は興味もない芸能人のものまで見てしまう。


 無為に過ぎる時間に唇を噛みながら、エイミを想う。普段はまとわりついてくる彼女も、今は邪魔するまいとリビングに行ってしまった。


 触りたい。背中の毛を触って、くすぐってからかって、落ち着いたら勉強を再開しよう。


 リビングへ向かおうと部屋を出ると、廊下に母とエイミの談笑する声が届いていた。

 そっと覗くと、ダイニングテーブルに通販カタログを並べていた。


 エイミの夏服を通販で買うことにしたのだ。

 ただ服を選んでいるだけではなく、あれが似合うこれが似合うと、母がアドバイスをして、エイミが真剣にそれを聞いている。


 ああ、楽しそうだな、それだけ思うと踵を返した。

 あれは、美也子がしてやりたかった。


 数十分後、再度リビングへ向かうと、ソファで母がエイミの背中の毛を梳いていた。


 アンダーコートの抜け毛がよく取れる目の細かいコームは、エイミのために母が買ってきたものだ。エイミは上着を脱いで肌をさらし、すっかりリラックスしている。


「気持ちいい? エイミちゃん」

「はい、お母様にこのようなことをして頂き、誠に恐縮でございます」

「んもう、そんな大袈裟な」

「ふふ、美也子様も、よくそうおっしゃいますよ」

「あらまあ」


 そんなふうに、二人で穏やかに笑っている。


「夏になったら、抜け毛が増えたりしないの?」

「どうでしょう……。あまり気にしたことはありませんでした」

「日本の夏は暑いから、これから身体が気候に合うように変わっていくかもしれないわね」

「確かに、こちらの夏はいささか湿気が厳しいですね」

「この毛って、切ってもいいのかしら」


 コームには抜け毛が玉のように付着していた。


「まあ、その発想はありませんでした」

「あら、切っても差し支えないなら、バリカン買ってこようかしら。きっと涼しくなるわ」


 母の手が、エイミの背中の体毛を優しく撫でる。

 くすぐったかったようで、エイミがわずかに身をよじった。耳が数回小刻みに動く。

 それを見た母が、敏感なのね、と笑う。


 自分の大切な者たちが慈しみ合う姿を見て、本来ならば和むところだろう。

 だが、心に湧いてきた複雑な感情は、明らかに負のものだった。


 リビングの扉を開けたまま呆然と立ち尽くす美也子を見て、エイミが立ち上がろうとしたが、首を振って止めた。

 そのまま自室に戻る。


 さらに数十分後、母はエイミにマニキュアを塗ってもらっていた。

 そんなこと、母にしてやったことはないし、エイミにしてもらったこともない。


 そもそも、あのシャネルの容器に触れることは、美也子には許されていない。高級ブランド品だから、十年早いと。

 それをエイミが先に触れている。


「エイミちゃん、上手ね。器用だわ」

「お褒めに預かり光栄です。元の世界には、爪を装飾するという文化がなかったので、斬新です」


 間近で顔を寄せ合って、二人で微笑んでいる。


 これらはすべて、母の気遣いなのだということは分かっていた。美也子がエイミを構ってやれないから、母が相手をしてくれているのだ。


 だが心に湧いたもやもやの正体、それがはっきりと分かってしまう。


 二重の嫉妬だ。


 お母さんは私のお母さんなのに、エイミが独占している。

 エイミは私のエイミなのに、お母さんが独占している。


 そこまで考えて自己嫌悪に陥る。二人とも、誰のものでもない。いつからこんなに傲慢な子になったんだろう。


 暗い気持ちで机に向かうが、集中力は数十分ほどで切れた。


 ぼんやりしていると、次に頭に浮かんだのはクリスデンのことだった。

 立派な人物だったのだろう。百年かけて研鑽を積んだと言っていた。

 一時間も集中できない美也子には真似できそうにない。魂が同じはずなのに。


 ――座りっぱなしで痔気味、胸や尻にホクロのある女に興奮する、勃起不全だった――。


 その台詞を思いだし、赤面する。冗談だと言っていたが、その割には具体的過ぎるだろう。絶対に本当のことだ。


 そもそも十五歳の少女に向かって言うべき内容ではない。ふざけるな、と思う。

 特に、勃起不全って何だ。

 意味はなんとなく分かるが、正確には一体どういった症状なのだろう。


 スマホで検索しようとして、慌ててベッドに投げ捨てた。検索履歴に残すことも、汚らわしい単語である。


 それに、いわゆるホクロフェチだったのだろうか。


 エイミの左の胸の横側、脇から少し下の部分にホクロがあることは初日に気付いていた。背中を洗ってやるときに自然と目に入る。

 身体にホクロがあるなんて珍しいことでもないから、意識したことはなかった。

 だが、先のクリスデンの言葉を聞いて以来、つい目をやってしまう。


 美也子はもちろん興奮したりしない。

 それでも考えてしまう。そのホクロはクリスデンの目に入ったのか。ならばどういう状況で見られたのか。それを見てあの男は何を思って、何かしたのか?


 『クリスデンとえっちなことしてたの?』とエイミに尋ねることなどできはしない。己の倫理観念に反する。


 だが、気になっているのもの確かだ。


 それを聞いてどうしようというのか。

 していたらなんだというのか。いい年をした大人の男女なのだから。


 いや、していてほしくない。そんなの汚い。あれは私のものだ。


 だから、私のものじゃないって。


 それに、勃起不全なのだからしていないはず。


 いやいや、そもそも勃起不全って具体的にどういう症状なの? 調べたい、調べたくない。


 散らかった思考は、テスト勉強には邪魔でしかない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ