塩林檎
お題「成就しない恋」
――しゃりしゃりしゃり
林檎を齧る音がする。
「いやぁ、相変わらず美味しいねぇ、コースケんちの林檎は」
「んー」
――しゃりしゃりしゃり
毎年この季節になると、田舎の祖父母が大量の林檎を送ってくる。
「このちょっとしょっぱいのがいいんだよねぇ」
「そりゃ塩水につけてるからな」
――しゃりしゃりしゃり
大皿一杯に剥いた林檎を盛りつけて、アキナと二人で食べる。傷まない様に塩水につけた林檎は少ししょっぱく、甘い。毎年の定番だった。
「懐かしいねぇ。こうやって二人で食べるのってどれくらいぶりだっけ」
「んー、大学入る前が最後か? だとすると十年近く空いてるな」
――しゃりしゃりしゃり
最初はお隣さんとしておすそ分けしていただけだったらしい。だが同じ年の子を持つ親同士、意気投合したのかドンドンと仲良くなっていき、子どもたちも次第に打ち解けあっていったため、家族ぐるみの付き合いとなっていた。
「そんなになるかぁ。会ってはいたから実感ないなぁ」
「そりゃ月日が経つのは早いんだよ」
――しゃりしゃりしゃり
いつの間にか、隣にいるのが当たり前になっていた。
「そうだよね。あたしも結婚するわけだ」
――――しゃり
「お互いにな」
――――しゃりしゃり
「もうあの頃とは違うんだねぇ」
「戻りたいとか言うんじゃねーぞ」
――しゃりしゃりしゃり
気が付いたら、別々になっていた。
「奥さんとはどうなのよ?」
「まだ奥さんじゃない」
――しゃりしゃりしゃり
俺はかねてより付き合っていた女性と婚約し、両家の顔合わせも済ませ、籍を入れる日取りを相談しているところだ。
「旦那さんとはどうなんだ?」
「ぼちぼちかなー」
――しゃりしゃりしゃり
アキナは少し前に結婚し、今は旦那さんと暮らしている。今日はたまたま実家に帰ってきただけだった。
「引っ越しちゃったら会えなくなるね」
「この林檎も、これで最後かもな」
――しゃりしゃりしゃり
俺は婚約者と暮らすためにここを離れる。アキナは旦那の長距離出張に付いていく。
「会おうと思えば会えないこともないだろ」
「そうだけどさぁ」
――しゃりしゃりしゃり
二人で林檎を齧る。
「寂しいとかないわけ?」
「今更だろ」
――しゃりしゃりしゃり
「林檎なんてそこらで買えよ」
「この味を出せるかわかんないじゃん」
――しゃりしゃりしゃり
「ほんと、今まで色々あったよねぇ」
「ああ、あったな」
――しゃりしゃりしゃり
「ねぇ、あたしさ。たぶんほんとはコースケのこと」
――――しゃくっ
「俺たちはただの幼馴染だ。林檎食ってる、な。そうだろ?」
――――しゃりっ
「そうだね」
――しゃりしゃりしゃり
開きかけの口に押し込まれた林檎を齧りとって笑う。
「腐れ縁ってやつかぁ」
「勘弁してほしいけどな」
――しゃりしゃりしゃり
笑いあう。
「これからもよろしくね」
「おう」
――しゃりしゃりしゃり
齧った林檎は甘く、少しだけしょっぱかった。




