ネグリジェ
さてと、はじめようか。
雨が降り止まない。俺様の雨も降り止まない。
いや、雨で表せるほどの俺ではない。
そんなこんなで、学校に着いた。
「おーい、カンタケー」教室の奥から呼ばれた。
「なんじゃい。あとその呼び方やめろ」韓 竹己それが略されて「カンタケ」らしい。正直名前など気にしたことはない。俺が誰かなんて考えられたものではない。現代の人間の尺度では不可能だからだ。
「今日、朝あいつが探してたぜ」
あいつとは清川 芝桜のことだろう。一つ年下の後輩で、俺のことが好きで好きで好きで毎日苦しいようだ。
彼女との出会いは一か月ほど前だ。俺は写真部に入っている。入っていると言ってもほとんど活動には参加していない。そんな俺が何故入っているかというと、、、
入学式の日、俺はいつも通りに、前髪をバキバキの富士山にして廊下の真ん中で正座をしていた。そこにある男が話しかけてきた。その男は藤田というこの学校の教師らしい。顔面偏差値では、世界の上位0.2%に属する俺が言うと皮肉に聞こえるかもしれないが、欧州人を彷彿させる端正な顔立ちである。
「韓ちゃん~、お ね が い、しゃぁしぃっんぶに名前を貸してほしいのぉ♡、それと~も、もっといいこと、す~る?♡」先生が真剣な目で俺を見つめて言ってきた。
二つ返事で、いいことしゅる~と言いたいが、周りの目があるので仕方なく、
「いいだろう」と一言。あぁ、俺はなんて尊い声をしているんだろう。
しかし、俺には勧誘を受けた理由がいまいちわかっていない。写真部だと言っていたが、俺は写真に精通しているところは、Sony World Photography Awardsに18か国のナショナルアワードを獲得したくらいだろう。確かに、世界初の偉業と称賛されたが、俺からしたらそんなことは日常茶飯事だ。
そうして写真部に入り、3年目に突入している。
今年の定期集会に初めて出席したときのことだ。2年生と思われる部員の女の子に一目惚れをされてしまった。一般人のお前らにはわからないと思うが、俺にはわかる。俺だから。10分に一回程度一目惚れをされるのだか、基本的に気付いていないふりをしている。だけど、この子は腐女子だから、面白そうだった。だから、彼女に向かって微笑んであげた。それが清川との出会いだ。
「あいつもご苦労さんだな、お前には誰も釣り合わないのにな」友人が俺に向かって言ってきた。
「なぁ、ちょっとは相手してやったらどうだ?可哀想だろ?」
確かにずっと見られているのは鬱陶しいと感じていた。
「そうだな。ちょっと相手してやるか」そう言って俺は彼女の教室に向かった。
キャーキャー歓声が上がっている。勿論俺を見た廊下にいる女子から。彼女は机で何人かの女子とスマホを眺めていた。
「おーい」俺が呼ぶと彼女はこの世の終わりかのような形相で、自分を指さして自分か?とアイコンタクトを送ってきた。俺が頷くと、彼女は逆立ちをしながら俺のもとに来た。
「かっこいい」俺に近づいて、小さい声でそう一言。
「Line交換してあげるよ」俺はそう言った。
彼女は嬉しそうに昇天した。