プロローグ
蝉たちが自身の存在を前面に出す季節。
俺にとって、いや俺たちにとって大事な季節。
熱気がこもる体育館で、俺は対戦相手を正眼でとらえていた。
激しく続く攻防中で体力は底を尽きていた。
正直ここで諦めてしまいえば楽になる。
……しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
今まで積み上げてきたモノを無駄にするわけにはいかない。
みんなの思いを受けてこの場に立っているのだから。
右足を強く踏み込み、相手に向かって飛び出した
勝つには、分の悪い賭けだが……
勝つためには必要だと思った。
そう思った瞬間、不思議と身体が軽くなった。
まるで、思いに身体が答えてくれているかのように。
プチ!
「あっ……」
今まで聴いたことのない脱力した音が耳に響いた。
瞬間的に声も出てしまったが、いったい何が起きたんだ?
考えを巡らせていると、左足に激痛と走った。
え?
なんだ?
何が起きている?
なんで、
目の前に倒すべき相手がいるのに……
俺は倒れているんだ?
立てよ、立ってくれよ
どうしていうことをきいてくれないんだよ!
倒れ行く俺をよそに、俺の身体は反応を示さず。
思い切り倒れ、頭を打った。
俺の世界は暗転した。
暗い、何も見えない。
薄れゆく意識の中で聴こえたのは、仲間の不安そうな声だった。