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1-8.反撃の狼煙

最上位魔族を赤い目のものがいたとは言え、人間が倒したという情報は

人類にとって希望の光となった。

その後、他の赤目の活躍もあり、周囲の下位魔族は排除され、人間が

魔族から勝利を手にするという奇跡が起きた。悪魔の目覚め以来、

奪われるばかりだった人間の反撃のはじまり。人々は歓喜に沸き立った。

そしてもう一つ、魔族の赤眼に劣化魔鉱石を打ち込むことで、

魔族の対魔力装甲が消滅するという事実は世界に驚きを持って受け入れられた。

魔族への勝利から一週間後、帝都の中央広場で祝勝の宴が開かれ、

帝都は熱気に包まれた。人の多い場所があまり好きではないおれだったが、

この宴には積極的に参加した。

「あ、リネス!また、いちゃいちゃされて喜んでる。」

ネリーは面白いものでも見たようにうれしそうに微笑む。

正直に言ってしまえばこの赤目のせいでおれはモテない人生を歩んできた。

その劣等感を一瞬で吹き消すほど、おれはその日、モテまくった。

戦場で一緒に戦った女、アリーという名前だったか。あいつはどういうわけか

不機嫌になって丘の上の家に帰ってしまった。

その捨て台詞が「デレた赤目」だったわけだが、まぁ、戦いの後にはこういう時間も必要だ。


祝宴ののち、俺たちは帝都のはずれにあるヴァッサーの神殿で落ち合った。

ここは帝都がまだ魔族と人間の戦いの最前線でなかった頃、

前線へ出陣するものたちが帝都への帰還を祈念するために訪れていた場所だ。

おれとネリーがついた頃には、アリーはすでに到着していて、

泉の淵に腰掛けて軽やかな音を奏でる水流の演奏に聞き入っていた。

真っ赤なペンダントを首にかけ、パステル調の淡い色の上下の服に身を

包む姿はとても美しいと感じた。

「来たのね、デレ目。あのままずっとデレデレしてるのかと思ってたわ。」

「デレ目とか言うな。傭兵ってのは戦い終わったらパーっと遊ぶもんなんだよ。

それで、俺たちをここに呼び出したのはどういうわけだ?」

「・・・・。あなたたち、魔族が憎くない?」

「質問に質問で返すのかよ。」

おれはムッとするが、ネリーが俺の肩を叩いて、何か感じ取ったという表情で頷く。

俺はアリーに向き直り、その表情が憎しみや悲しみの入り混じったものであることに気づく。

「ああ、憎いよ。連中はわけもなく人を殺し、わけもなく土地を奪っている。

俺たちは平和に暮らしたいだけなのに、やつらのバカげた本能のせいで、

朝から晩まで心休まる暇もない。」

「僕も憎い。魔族は大切な人をたくさん奪った。帝国には多くの戦争孤児がいる。

餓死する子供、魔族に襲われる子供、いじめられる子供、

すべて元を辿れば魔族が原因なんだ。あいつらは最低の悪魔だ。」

ネリーの言葉がおれに続いた。おれは肉親を魔族に殺されたわけではない、

友人が魔族に殺されたことはあったが、お互い傭兵である以上、

そういう日は来ると思っていたので、たいして傷つきはしなかった。

その分、魔族を殺して殺しておれは貪欲に強くなった。

だが、ネリーは魔族により与えられた心の傷を何かしら抱えているようだった。

「帝国学術院が去年発表した情報では『人間の領土はかっての2分の1、人口はついに最盛期の

半分以下になってしまった。あと、5年もすれば人間は滅びる。』だそうよ。

もう私たちに残された時間はあまりない。そんな状況でリネス、あなたみたいにたった一人で

魔族と渡り合える人間が現れて来た。奪われるばかりでなくて、奪い返したいと思わない?

私たちの、人間の矜持を取り戻したいって思わない?」

少し潤んだ瞳でアリーは冷静に、それでいて燃えたぎるような複雑な感情を

持って語りかけて来た。

「おれは人間でないからな、人間の誇りなんてものはわからない。

でも、あんたもネリーも魔族を憎いと思ってるなら、力を貸してもいいよ?

こちらから魔族側に攻めていきたいってことなんだろ?」

「ええ、そうよ。滅ぶのを待つんじゃなくて、人間から攻め込むの。

逆に魔族を滅ぼしてやる。」

おれは先の祝宴の後、皇帝から連合軍本営信任印を渡されていた。

この印があれば少なくとも人間側の土地では国の制限なく自由に行き来ができる。

恐ろしい勢いで攻められ、領土縮小を続ける人間側の遊撃兵としては最適な状況だ。

そして、ネリーに加えてアリーがいればもしかしたら、

あの強大な魔族共に勝てるかもしれない。おれはそう考えた。

そして、たった3人の人間(正確には赤目が一人)による魔族への反撃が始まろうとしていた。


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