表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/50

1-5.つかの間の平穏

 帝都、そこは現在の大陸においては比較的発展した都市に分類されるだろう。

昼間は大通りで出店が並び多くの人が行き交う。魔道車が何百台と行き交い、

レムルスとルイドが滅んだ後は多くの難民が流れ込み爆発的に人口が増大した。

おれはネリーをつれて、状況報告のため、帝国軍戦略本部を訪れていた。

「そうか・・・、我が軍はアスタナキアの戦いで壊滅したのだな・・・。」

目の前の長椅子に腰掛けた重鎧を身につけた初老の男がつぶやいた。

顔からは血の気が引き、見ているのが可哀想になるほどだった。

忌み嫌われ、各地を転々としていたおれに帝国軍の遊撃隊としての地位をくれた人物だ。

普段は豪快で、細かいことなど気にも留めない男が、恐怖にかられ戸惑う姿は、

現在の世界における魔族の圧倒的な脅威を再確認させた。

「ああ、俺が行った時には死体の山だった。

ネリーが戦っていたところに到着してあの魔族を殺したが、ほかに生きている人間はいなかった。」

「まことに悲しきことだ。あの戦いには、兵士長含めて我が軍の主力を加えていた。

その軍がたった数時間で全滅するとは。次に魔族がせめてきたら我々は終わりだ。」

重鎧の男は頭を抱えて苦しそうな呻き声をあげた。

「おそらくこれまでと同様、魔族共が次に現れる時、司令官は最上位魔族でしょう。

各国で戦ってきた経験から言わせてもらいますが、

国民をすぐに安全圏に逃がしたほうがいい。さもないと、ほんとうに悲惨なことになる。」

「それは承知している。我が国は終わりだ。さきほど、帝令を流した。

各地区の住民は規定の都市に逃れるはずだ。」

帝令というのは、帝国から国民に通知される皇帝からの命令であり、

緊急事態に際して最優先される情報を、各住民ごとに支給された通信石に伝える仕組みでもある。

「後方の連合軍本営からは君と同じ赤い目のものたちが派遣されて来るそうだが、

我々が安全圏に逃れるために、民を先導してニルムの森に到着するのに、

おそらく3日はかかる。そこでお願いがある。我が国に滞在を続けて、

国民が逃げるまでの時間を稼いではくれないか?報酬ははずもう。

今のままでは丸腰の国民が最下位魔族の出るニルムの森を抜けるための戦力すら確保できない。」

おれはその言葉を受けて思案した。

「もちろん、最上位魔族を倒してくれとは言わん。時間を稼いでくれさえすればいい。

すべての国民がニルムの森に入れば、連合軍本営の支援軍とも合流できるはずだ。」

「報酬次第だな。命をはれっていうならそれ相応の報酬が欲しい。」

「報酬は宝物庫のリメリスの髪飾りでどうだろうか。命の精霊レーベンの加護が宿ると

言われるもので、光の精霊リヒトの神殿で使えば、一度だけ死んだ人間を蘇らせることができると言われる。

先代の王が、我が国の盾となる人に渡せとおっしゃっていた。」

「レーベンの加護か・・・。それは確かに貴重なものだ。わかった、引き受けよう。

ただ、最上位魔族が攻めてきたら俺でも1日もつか分からないし、

窮地にたって死ぬまで戦うかは確約できない。だから、すぐに出発してくれ。」

日が暮れるころには広大な帝都は静寂に包まれ、一部の赤目と数十人の兵士が待機するのみとなった。

アスタナキアから吹き付けて来る砂の混じった風が不気味な音を立てながら大通りを吹き抜けていく・・・、

それは近寄ってくる死の囁きのようで、兵士の中には平常心を失うものもいた。

「お前は逃げても良かったんだぞ?」

「君が残ってるんだから、逃げられるわけないよ。それはそうとリネス、お腹空いてない?」

ネリーは優しい笑顔を俺に向け、兵站部から支給されるレーションを差し出してくれた。

その姿を見ながら何がなんでもこいつを死なせるわけにはいかないなと思った。


その日は特に異変は起こらず、俺たちは友達のように言葉を交わして時間を潰した。

ネリーは帝都の中央学舎出身の15歳で、兵士になったのはつい最近のことだという。

高位魔法までは使えないがミリー使いであり、戦略魔法と呼ばれる補助系統(身体強化、

回復、転送などの非攻撃型の魔法)は使えるようだ。

アスタナキアでは戦略魔法師として後方にいたから、最後まで生き残ることになったようだ。

初めての実戦で上位魔族にあたるとは不幸としか言いようがない・・・と俺は思った。

「リネスはどうして傭兵になったの?」

「どうしてだろうなぁ?おれは昔の記憶がなかったし、字も読めなかったからまともな仕事につけなくてな。

でも、戦うことに関してだけは誰にも負けなかった。だから、傭兵になったんだと思うぜ?」

「昔の記憶が・・・?」

「目が覚めたら訳のわからんところにいた。

灰色の空が見える大地の割れ目の中にな。それだけさ・・。」

おれは不気味に淀んだ真っ黒な空を見上げて呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ