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6-4.空を穿つ叫び

剣で戦うと聞いたらどんな戦闘を

思い浮かべるだろうか。

おそらくふた振りの鋼が激しく

ぶつかり合うそんなシーンを

思い浮かべるのではないだろうか?

だが、一振りで大地を裂き、

ふた振り目で地面を大きく窪ませるような

非常識な力を得た目の前の最後の魔族は

おれたちの想像をはるかに超える力を

やすやすと振るう。

「なんなのよ、こいつ。

体からバカみたいに魔力が漏れ出してる。

これが魔源の力っていうことなの!?」

「ああ、魔源に食わせた人の数だけ

やつの力は上昇する。

いまのやつの破壊的な力は間違いなく

魔源が影響してる。」

「リネス!まずいよ、このままじゃ

僕たちがジリ貧になる。

なんとかしてやつの動きを止めないと!」

「くそっ!魔源を破壊できれば

こちらにも勝機が出てくるんだがな。」

「あいつの真後ろの建物の中だから、

そう易々とは通してくれなさそうね。」

マルサスは魔源が設置されていると

思われる神殿を背景におれたちと

対峙していた。

やつの斬撃が間髪入れず放たれる

中で、神殿にたどり着くのは容易では無い。

しかも、おれたちは完全におされ

はじめていた。

おれがやつの近接攻撃を受け、

リーニャたちが魔法攻撃から

防御してくれる間は耐えられるが、

息が上がり始めたリーニャの様子から

もう長くは持たないとわかる。

魔力が尽きた瞬間がおれたちの敗北を

意味する、、、そのことは戦場を見れば

明らかだった。

そのとき、1つのアイデアが思い浮かぶ。

おれは一度交代し、ネリーに作戦内容を

早口で伝える。

「わかった。本陣に応援要請するよ。

それで、魔源の神殿には誰が行くの?」

「リーニャ、ネリー頼めるか?

マルサスはおれとアリーで抑えるから。」

コクンと頷くとネリーは通信石を介して

本陣からの遠距離魔法攻撃の支援

を行なった。

そして、大きな雄叫びとともに味方陣営

から火炎系の魔法攻撃がおれたちのいる

レーノルベ渓谷に向かって降り注いだ。

爆音、火炎、煙、土埃、、、、おれの作戦は

シンプルだった。

この攻撃にマルサスの注意を引きつけ、

その隙にリーニャたちは神殿に潜入する

というわけだ。

だが、見通しが甘かった。

マルサスは巻き上がった土煙を剣で

払いのけると、神殿の手前まで到達

していた2人に禁呪クラスの攻撃を放った。

漆黒の炎が蛇のようにうねり、

2人を襲う。

リーニャとネリーは防御魔法を

使用したようだが、魔源の力を得た

司令魔族の力は簡易な防御壁など

無いに等しいと言わんばかりに打ち破る。

激しく体を焼かれ、リーニャたちは

神殿のすぐそばまではじき飛ばされる。

遠目には生きているのか、死んでいるのかも

わからないほど、ボロボロになった2人を

見た瞬間、おれは頭に血が上りやつに

斬りかかる。

「光の精霊リヒト、我は汝の祝福を求めん!

神聖なる神の光を授けよ、卑き悪魔に

制裁の一撃を!!」

魔法を宿した剣は美しく輝き、

マルサスに向かって振り下ろされる。

「ほう、魔法剣か。

だが、力不足だな。それでは

我には届かんぞ。」

軽度のダメージをやつに与えられた

ようだが、致命傷からは程遠い。

「くらえ、神をもうち滅ぼす絶大なる

我が一撃を。」

やつは不可視の剣を勢いよく横に振り切る。

放たれた斬撃は強力な衝撃波となって、

おれたちを直撃する。

その瞬間、おれは悟った。

アリーの魔力が底をついたんだと、、、。

「アリー、大丈夫か!?」

彼女はおれの後方に仰向けに倒れている。

先ほどの一撃で気を失ったようだ。

「ふふ、残るは貴様だけか。

我ら魔族をここまで追いやった

貴様らですら魔源より得た我が力には、

遠く及ばぬのだな。

貴様らを血祭りにあげたあとは、

城を取り囲む連中を皆殺しにしてくれる。」

「くそっ、そうはさせるかよ。」

俺は必死で頭を回して打開策を考える。

リーニャ、ネリスはさっきの一撃で行動不能だろう。

アリーも今は気を失っている。


俺は逃げ道のない追い込まれた状況の中、

ふと戦場の変化に気づく。


その瞬間、絶望の中に一握りの希望を見つける。

フラフラと立ち上がった俺はマルサスをまっすぐに

睨みつける。

「おい、魔族。てめぇらがどうやって生まれて

きたか知っているか?」

「何を突然言い出すのかと思えば、、、。

我々は人の憎悪の根元たる存在、お前たちの憎しみが

我々を生み出すのだ。」

「ご名答だな、つまりお前たちの生みの親と言っても

いい人間が世の中に必ずいるわけだ。」

「言うに事欠いて何を言い出すのかと思えば。

分かりきったことを・・・。」

「なぁ、マルサス。お前の生みの親は誰だと思う?

誰の憎しみが世界で最初の魔族のお前を

生み出したんだと思う?」

「・・・・・。まるでそれが誰か知っているような

口ぶりだな。」

俺は剣を構え、ゆっくりと言葉を続ける。

「あぁ、知ってるさ。それは・・・俺だからな!」

奴の虚を突かれた表情を見ながら俺は勢いよく斬りかかる。

「どうしたよ?俺が生みの親じゃそんなに不満なのか!?」

奴は沈黙の中、俺の斬撃をかわしながら何か考え込んでいる。

「ふっ、そういうことか・・・。」

その言葉とともに奴の剣は空を切り、強烈なかまいたちが

俺を襲う。

右太ももを浅く切られ、俺は膝をつく。

「貴様の太刀筋や魔力の性質に我に似た部分を感じていた。

なるほど、そういうことか・・。

まさか、魔源の力を最初に使う相手が

我が創造主であるとはな。」

「ふっ、だがそう簡単にはやられないさ。」

俺は火炎系の魔法で奴の視界を奪い、交代する。

「アリー?生きているか?」

「・・・・・。なんとかね・・。」

「なら頼みがある。奴の注意を引きつけて時間を稼ぎたい。

一緒に戦ってくれ。」

「本当に人使いが荒いんだから・・。」

アリーはよろよろと立ち上がるが、その心もとない姿に

俺はそっと肩を貸す。

「奴は自分の圧倒的に強いと思っている。

だから、俺たちが遠距離攻撃に徹すれば調子に乗って

自分の力を見せびらかそうとしてくる。

それだけでも相当時間が稼げる。協力してくれ!!」

「なんか分からないけど、とにかく時間を稼げばいいのね。

この戦いが終わったらたっぷりとお礼をしてもらうわよ?」

「任せな!」

俺たちは後方に大きくジャンプすると。詠唱を開始する。

「光の精霊リヒト、我は汝の祝福を求めん。

聡明なる天使の槍は邪悪なる種を打ち抜き、

聖なる波動を持って浄化せん!!」

俺たちが初めて上位の魔族を破った時の魔法、無意識に俺たちは

その魔法を詠唱する。

巨大な光の槍は勢いよくマルサスに向かって飛翔する。

しかし、その一撃すら奴は片手で弾き飛ばした。

「くそっ、化け物め・・・。」

俺たちは二手に分かれて、別の方向から遠距離型の魔法で

同時攻撃を繰り返す。

「素晴らしい連携ですね・・。人間にしておくのが惜しい・・。」

奴は両手を天に向かって掲げ、長文の詠唱を開始した。

「アリー、まずい。禁呪が来る。防御魔法を!!」

「わかってるわよ!こんなとこで死んでたまるもんですか!」

アリーも詠唱を開始する。

アリーとマルサスが詠唱を終えたのは同時だった。

空から降り注ぐ膨大な量の黒色の槍が俺たちに襲いかかる。

アリーは土属性の防御魔法でなんとか防御しているが、

息が上がっており、とても苦しそうだ。

「まずいな・・・。もうこれ以上は持たせられないぞ・・。

リーニャ、ネリー・・。」


変化が起こったのはアリーの張った防御壁に罅が入り、

いよいよ万事休すとなり始めた時であった。

急激に黒色の槍の威力が落ち始めたのである。

そして、神殿の方角から狙いを正確に定めた魔法攻撃が

マルサスに襲いかかる。

「ぐあああああああああああ!!!???」

全身を炎で焼かれ、マルサスは地面を転げる。

神殿の入り口にはガッツポーズのリーニャとネリーが立っていた。

「あいつら、間に合ったんだな!流石だぜ。」

ネリーとリーニャはマルサスの攻撃を受けたあと、気を失ったふりを

して隙を伺っていた。

そして、マルサスが俺たちに気を引かれている隙に神殿に

侵入をしたようだ。

「リネスさん、魔源は破壊しました。

もう魔族の力を支えるものはありません。

一気に倒してしまってください。」

その言葉を受けてアリーは呆れたような顔をする。

「リネス、倒してしまってくださいだって。」

「ああ、本当に信頼されるのは嬉しいが、責任が重いぜ。」

俺は守りの剣を引き抜き正眼に構える。

「マルサス、長きに渡った魔族と人間の戦いはこれで終わりだ。

全ての始まりは俺の憎しみがお前を生み出したことだ。

だから、俺の手で終わらせる。」

「ふっ、勝手なことを・・・・。我ら魔族とて安寧を求めて

戦い続けてきたのに・・。」

「こんなことを言うのは馬鹿げてるのが・・・

申し訳なかった。安らかに眠ってくれ・・・。」

俺は全ての魔力を込めた一撃をマルサスへ向けて振り下ろす。

その力は大地を突き破り、全ての災厄を浄化する光となり、

天高い光の柱が生まれる。

全ての魔族の始まり、俺の生み出した災厄の根源はその瞬間絶たれた。

周りで涙し嗚咽するネリーや、手を合わせて祈りを捧げるリーニャ、

どこか遠くの空を眺めながら何かに思いを馳せるアリーを見つめ、

俺はそっと目を閉じ、全てが終わったのだと悟った。

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