6-3.原初の魔族
雪原に登る太陽のきらめきは言葉では
言い表せないほどに美しかった。
きらきらと光が踊るように跳ね、その後
を追うように冷たい風が吹き抜けていく。
やがて、鬨の声をあげて2つの軍勢が
ぶつかった。
その12時間前、おれたちは最前線の
旧リメリス跡地の作戦本部に顔を
出していた。
「マティアス、久しぶりだな。」
大勢が囲んで議論できるように、
本部には大きな会議机が設置されていた。
そこに大きな地図を広げて、
マティアスはティビと話し込んで
いたようだ。
「ああ、久しぶりだな。
よくぞ今日まで生き残ったな。」
「お互いにほんとにしぶといよな。
まあ、それはそれとして今日は話が
あってきた。」
そこからはおれの出自と経歴について
一通り話した。
全ての話を聞き終えたあと、かれは
やはりアリーたちと同じことを言った。
そして、おれたちがレムルス攻略の際、
別働隊としてレーノルベ渓谷に向かう
ことを許可してくれた。
「おれはお前に多くの借りがある。
憎むなんてありえないぞ。」
マティアスは優しい笑顔を浮かべて
そう言ってくれた。
おれはここでもまた涙する。
「みんないいやつだな、ほんとに。」
「類は友を呼ぶというからな。
それと、決戦の前にミーシャに会ってやれ。
しばらくお前と会えなくて寂しがって
いたぞ。」
「ああ、そういえばずっと会ってないな。
さいきんは気が張り詰めてたから、怖い顔
を見せたくなかったんだよ。
ありがとう、会ってくるさ。」
ミーシャは最前線の本営ではなく、
後方の渡らずの橋の砦にいた。
彼女は、料理の腕を認められて
兵士の食事係として従軍していた。
料理ももちろんだが、彼女の笑顔見たさで
屈強な男どもが毎日、料理(主にお菓子)を
買いに来る姿はなんとも面白かった。
ミーシャはおれを見つけると、
「おにーのバカー!!」
と叫びながら、お腹のあたりを
ポコポコ殴ってきた。
ずっとほったらかしにしていたことを
怒っているようだ。
何度も誤り、少しいじったりしながら
ご機嫌をとると彼女はあっという間に
太陽のような笑顔をおれに向けてくれる
ようになった。
そこからはこれまで乗り越えた
最悪の数々を少しアレンジして
聞かせてあげた。
彼女は目をきらきらと輝かせながら、
楽しそうに聞いてくれる。
その笑顔を見ると、絶対に戦場から
帰って来なければと決意が新たになった。
休憩時間が過ぎ、持ち場に戻る時、
彼女はそっとお菓子の袋をくれる。
「疲れた時はたくさんおかし食べると
いいんだよ。
すごく幸せな気持ちになれるんだよ。」
小さな袋に入ったお菓子が世界の
どんなものよりも大切に思えた。
夜明けとともに始まった戦闘は
どちらかが有利という状況ではなく、
魔族も総力戦といった感じで全力の
抵抗が行われたため、日をまたぐこと
になった。
だが、やはり領土を奪われ、司令たる
上位魔族を多く失った魔族側はどんどん
押されて、籠城に近い状態になっていた。
その頃には城外の魔族は一掃された。
その夜、戦場で人々は
失った家族の顔を思い浮かべ涙し、
今日散った勇敢な兵士の姿を思い出し、
守るべき大切な家族への想いを馳せ、
それぞれの思う時間を過ごした。
おれたちはそんな人々の姿を記憶に
焼き付けて、レーノルベ渓谷へと
進軍を開始した。
レーノルベ渓谷、、、。
そこはレムルスの西方の森林地帯にあり、
不気味な静けさと禍々しい瘴気に覆われた
場所であった。おれたちは朽ちた木々の間を縫うように進み、やがて渓谷へ降りる
トンネルを見つけた。
ここに至るまで数度、上位の魔族との
戦闘があったが、もはやおれたちの敵
ではなかった。
やがて、谷底に到着したおれたちは
慎重に歩を進める。
「この川沿いに真っ直ぐ行くと、
真っ黒な神殿がある。
そこに魔源の隠されている。」
「いよいよね、、、、。」
アリーは少し呼吸が荒いようだ。
この瘴気に少し毒されたのかもしれない。
「リーニャ、みんなに解毒魔法を
かけてやってくれ。」
「はい、わかりました。
命の精霊レーベン、我が声を聞け。
清らかなる癒しの光を」
あたたかな光が降り注ぐ、おれたちの
身を蝕んでいた瘴気の影響は消えた。
「ありがとう、リーニャ。
けっこう、しんどかったのよね。」
「みなさん、少しでも体調がおかしく
なったら私にいってください。
ここの瘴気は強烈です。
侵食を軽減する魔法はかけていますが、
その場しのぎにしかなりませんから。」
そして、遠目に神殿を確認した時、
その入り口に立つやつの姿も視界に入った。
おれたちはもう迷わなかった、
おそれなかった。
最後の決戦に、アリー、ネリー、リーニャの
全員が覚悟を決めていたから。
おれたちはゆっくりと佇む災厄の根元に
近づいていった。
「待ちくたびれたぞ、、、。
人間、、、。」
原初の魔族マルサスはゆっくりと
臓物をえぐるような殺気を放ちつつ、
おれたちを睨みつける。
その体から放たれる尋常でない魔力と
瘴気は、以前の戦闘でやつが見せた力とは
比べ物にならなかった。
「そうか、てめぇ、魔源に力を、、、。」
「ふふふ、そうさ。
少しばかり遅かったな、人間ども。
われは神をも超える力を今手にした。
魔族はいまや数える程しか存在しない。
だが、我のこの力で再び魔族に繁栄を
もたらさん!」
そう高らかに宣言すると、やつは
不可視の剣を構え、飛びかかってきた。
おれはとっさに愛刀を抜き、やつの斬撃を
受ける。
その衝撃のあまりの巨大さにおれは
後方に吹き飛ばされる。
やつはニンマリと笑い、剣を構えなおした。
そして、最後の決戦が始まった。
原初の魔族と人間の最後の戦いが、、、。




