6-2.罪には正当な罰を
沈黙が痛かった。
何が起こるのかわからないことが
不安だった。
これまで築き上げてきた全てが
壊れるのが怖かった。
「それが事実なら、悪いのはあんた
じゃないわ。」
アリーの優しい声を聞いた時、おれは
耳を疑った。
「で、でも、、、、。」
「でもじゃない。
お母さんを目の前で殺されて、
怒らない方が人間としておかしいわよ。
その結果として魔族が生まれたとしても
私はあんたを憎んだりしない。」
「僕もだよ。リネス。」
「私もです。かってのレムルスの歪んだ
研究が招いた悲劇ではあれ、
リネスさんの責任ではありません。」
おれは熱くなった目元をおさえる。
そっとアリーがおれを抱き寄せる。
その姿勢のまま、おれは少しの間
声を上げて泣いた。
「あんたが頑張ってる姿は知ってるよ。
そして、それは他の人たちだって同じだよ。
ミーシャだって、お母さんだって、
帝都の人だってみんな知ってる。」
そういって、優しく頭を撫でられる。
おれはずっと抱えていた心の殻が破れる
ような気持ちだった。
罪に対する罰への恐れに支配されていた
おれは、この瞬間、自分のなすべき
ことは何かに目を向けられるようになった。
どのくらいの時間が経ったのだろう。
さきほどの感情の波は少し落ち着いて、
おれは冷静さを取り戻していた。
「リネスさん、魔族はレーノルベ渓谷の
魔源の力を解放するために何を
しようとしているのでしょうか?」
「おそらく生贄を捧げる気だろう。
魔源は人の命を食らう。
そこに生まれる憎しみや怨念を糧に
禍々しい力を生み出すんだ。」
「でも、生贄となるはずだった
旧本営の人々はもう助けたはずだよ?」
「ああ、でもだよ。
ノイルの話を覚えてるか?
魔族がレムルスの旧市場の跡地を
奴隷市場として利用している
って話があったろ?」
「そうか!マリルでもかっての住民は
労働力として生かされていた。
レムルスでも同じことが行われているなら、
囚われた人々がいるはずだね!」
「ああ、おそらくその人々を贄に、
連中は魔源を覚醒させて、その力を
取り込む気だ。
魔源は一度に大量の贄を喰らえない。
だから、まだ直ぐには問題は起こら
ないはずだ。
だが、時間はないぜ。」
全員がそのピリッとした空気の中で
決意を固める。
おれはずっと罰を受けることを考えてた。
だけど、ほんとうにおれが求められてる
ことはおれが関わったこの悲劇を
終わらせることだと思う。
だから、いま、おれたちは、おれは
強く、そして確かに一歩を踏み出す。




