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5-16.ルイド城の攻防戦

ルイド城への案内は先の戦いで

共闘したノイルがつとめてくれた。

俺たちと帝都、リンガルシアから

派遣された精鋭部隊は旧ルイド領の

手前で二手に別れ、

渡らずの橋の魔族砦の挟撃組、

ルイド城への突撃部隊に別れた。

当然、俺たちはルイド城へ向かう

部隊に加わった。


「くっ、マリルはそうでもなかったが、

旧ルイドに近付くほど雪がひどくなるな。」

「ああ、この辺りは昔から雪に閉ざされ

てて、本来なら国家は繁栄できないような

状態だっからな。」

ノイルは昔を懐かしむような口調だ。

「ノイルはルイドに行ったことも

あるのか?」

「あるよ。まだガキの頃、お袋に

連れられてよくルイドの市場に

行っていたな。」

聞けば、かってのルイドの市場といえば

世界中の食べ物と雑貨、武器が集まり、

何千という商人で溢れかえっていたそうだ。

「まぁ、今は魔族が奴隷市場に

してるって噂もあるし、あまり良い

印象はないけどな。」

そんな話をしながら、俺たちは

魔族領旧ルイド近郊の森に到着した。

このあと、渡らずの橋での挟撃作戦が

始まると通信石で合図があるはずだ。

「みんな、もう一度この後の流れを

確認するぞ。事前に得た情報だと

アリーが先行して城に侵入してるらしい。

あいつがティムスたちと

脱出経路の確保を行ってくれてる

はずだから、おれたちは人質のことで

はなく、魔族を排除することに

集中しよう。」

「うん、わかった。ぼくはいつも

通り後方から援護するよ。」

「私は後衛での魔法攻撃、状況を見て

前衛での戦闘のいつものスタイルで

いきます。」

そばでおれたちの作戦会議を聞いていた

ノイルが手をあげて尋ねて来る。

「おれはどうすればいい?」

「ノイルはたしか、魔法が得意だよね?」

ここに来る前、囚われていた人々と

話した時、ノイルに関する情報も

仕入れていた。

彼はマリル周辺の人間側の

レジスタンスだった人物で、基本的な

魔法がつかえる。

隠密行動にもたけ、情報収集、奇襲も

お手の物だそうだ。

「今回はルベルも現れるかもしれない。

その可能性も考えて後方支援を頼む。」

「了解した。」

そして、息を殺しておれたちは

合図を待つ。

「、、、、、、作戦、、開始。

砦、、への、、攻撃を、、、開始する。」

通信石から雑音の混じった音が

聞こえて来る。

どうやら戦闘が始まるようだ。

おれたちは光魔法で姿を隠しつつ、

旧ルイド城へと駆け出した。


旧ルイド城へは走れば数分の距離だ。

おれたちは会話もせず、ひたすら

城へ向けて駆けた。

途中、透明化を見破った魔族の攻撃

を受けたが連携して退けた。

「雪だと走りづらいね。

城に入るまでは戦闘は極力

避けないとだね。」

「ああ、こんなところで高位の魔族と

やりあったら、大変なことになるからな。

よし、城門が見えてきた。」

少し先には、吹きすさぶ雪で真っ白に

なった木製の巨大な門が見える。

おれとアリーは、その場に立ち止まると、

火炎系魔法の詠唱を始める。

「火の精霊フォイア、我が声を聞け!

紅蓮の粛清を、かの者に与えん!!」

おれたちの放った巨大な火炎の球は

門までの道に降り積もっていた雪を溶かし、

まっすぐに城門にぶつかると、

その硬い扉を弾き飛ばした。


さすがに魔族も気付いたようで、

最下位魔族が次々と飛び出して来る。

しかし、おれは空間転移の魔法で

城門内に侵入すると、弱小魔族を

なぎ払って進路を確保した。

「よし!ティビの話だと正門から入って、

左の階段を降りると地下牢らしい。

リーニャとネリーはそっちにいってくれ。

アリーたちが動きやすいように、

魔族の排除を頼む。

おれは城の上層階、、玉座の間にいく。」

おれはそういうと、魔族をバッサバッサと

切り捨てながら、階段を駆け上がる。

後方では精鋭部隊の兵士が、魔族を

すさまじい勢いで狩り尽くしていく。

時渡の遺跡から出土した古の武器を

装備した帝都の近衛兵も一部混じった

この部隊の戦力ならば弱小魔族では

生きた壁にすらならないようだ。

形成は圧倒的にこちらが有利、

あとはアリーたちがうまくやって

くれることを願うのみだった。

ちなみに大臣のティビは強化人間の

襲撃を受けて負傷していたが、なんとか

生き延びたようだ。

頑丈そうなおっさんだから大丈夫だろうと

思っていたが無事でよかった。


やがて階段を上がりきると少し大きな

空間に出た。

黒いシミを残す敷物の伸びる巨大な空間、

おれが上がってきた階段から見て、十字型に

通路が伸びている。

おれは迷わず直進しようとしたところで、

足を止めた。

「あ、あんたは誰だ?」

そこには旧本営側の鎧を着込んだ

男が佇んでいた。

「私はロディス、本営にて副長官を

勤めていた。」

「本営の、、、?そんな人がなぜ

こんな場所にいるんだ?

あんた一体、、、?」

おれは混乱した頭を整理する。

さらわれた?ならどうして武装して

殺気なんか放ってるんだ?

命令された?でも、どうして?本営の

優秀な兵士ならともかくただの副長官に?

おれのなかで混沌とした考えは

ロディスの攻撃によって発散してしまう。

やつは想定を超えるスピードで装備した

槍をまっすぐに突き出して来る。

それはもはや人間の技量を超えていた。

「まさか、、、強化人間か?」

「、、、、、」

やつは返事などせず、ひたすらに攻撃を

続ける。攻撃がこれほど単調でなければ

危なかったかもしれない。

しかし、ロディスの攻撃はスピードこそ

あるが、慣れてしまえば単純な刺突攻撃の

繰り返しだった。

おれは軽やかにステップを踏むと、やつの

攻撃が終わり、体勢が窮屈になる瞬間を

狙って愛刀できりかかった。

おれはそのとき、勝った気でいた。

しかし、ロディスの勝利を噛み締めた

表情を見たとき、そしてその視線の先に

気付いたとき、自分の甘さを思い知る

ことになる。

背後から襲いかかった魔法攻撃におれは

反応が追いつかず、弾き飛ばされる。

火炎系等の魔法が直撃したようだ、皮膚が

溶けたのではないかと思うほどの

激痛が走る。

「ごほっ、おれとしたことが油断したぜ。」

背後からゆっくりと男が近づいて来る。

おれはそいつに見覚えがあった。

「てめぇ、貿易の谷の時の、、、。」

「へっへっへ、覚えててくれたんだな。

この勇者気取りがよ。

心配しなくてもすぐに地獄に送って

やるからな。」

そういうとやつは跳躍し、手に持っていた

剣をまっすぐ振り下ろして来る。

辛うじて避けるも、意識が遠のき始める。

さすがに防御なしで、魔法の直撃は

こたえる。

荒い呼吸の中、おれは意識が飛んで

しまわないように唇の端をきつく噛む。

ドロッとした鉄臭い血の味を確かめて、

痛覚と嗅覚に刺激を与える。

「なんでてめぇら、ここにいるんだ?

おれを待ち伏せてたのか?」

「ふん、答える義理はないさ。ただ、

これ以上先に行かれると困るんだよ。

だから、おとなしく死ね!!」

ロディスと剣の男、2人を手負いで

相手するのは不可能だ。

おれは撤退か、応戦か、考えて結論を

だす。

「光の精霊リヒト、我が声を聞け。

曲がれ、失え、我が身は不可視の

靄をまとう。」

透明化の魔法によりこの場を逃れる

以外に術はなかった。

「ちっ、どこいきやがった!!

出てきやがれ、雑魚が。」

おれはその場を離れ、一旦地下牢へと急ぐ。


その頃、リーニャとネリーは、精鋭部隊の

メンバー数人と城内地下牢へと

到達していた。

「誰もいませんね、、、?これは一体

何が起こってしまったのでしょうか?」

リーニャは空になった牢屋を眺めながら

つぶやく。

「もしかしたら、すでにレムルスに

移送された後なのかも。

それなら急がないと手遅れになるよ。」

「待てみんな、この城の上階には

ロディス副長官とアリーの母親をさらった

やつがいる。やつらを倒しておかないと、

後ろから挟撃されたら終わりだ。」

「だけど、囚われていた人たちは

どうするの!?」

「ネリー、思い出せ。

人質の救出はアリーとティムスたちの

仕事だ。おれたちはあいつらがしっかり

働けるように敵を排除することを

優先しないと。」

「そう、、だね。ごめん、熱くなってた。」


階下の敵は精鋭班に任せ、おれたちは

ロディスと剣の男の討伐に向かった。

階段を登りきると、さきほどと同じ場所で

やつらは待ち構えている。

「ふん、負け犬が戻ってきたか。

次は確実に息の根を止めてやるさ。」

「そう何度も同じ手を食うとおもうなよ。」

おれたちは戦闘が始まるとすぐに四方に

散らばった。

リーニャ対剣の男、ロディス対おれという

組み合わせでたたかい始める。

「なあ、あんた副長官だったんだろ?

なぜ民を裏切ったんだ?」

「ふん、昔話をしようか。

おれはガルベンシアの貧民街で生まれた。

いま思い出してもサイコーの親父と

お袋だった。

おれは幸せだった、、、。

だが、悪魔の目覚めが起きて、街は災禍に

飲み込まれた。貧民を救ってくれる

勇者なんていなかった。おれの家族は

魔族に殺されて、全てを失った。」

「あれは、、、ひどい戦いだったな。」

「ひどいなんてものじゃねーよ!?

貴族が逃げるためにおれたちは人間の盾に

されたんだ。弱いから、貧しいから、

他人にへりくだるから、そんな目に

あうんだ。」

「それは知っている。だが、貴族たちは

結局、魔族に捕まって殺されただろ?」

「てめぇ、バカなのか?そんなのデマに

決まってんだろ。あのくそったれのノイド

だって旧ガルベンシアの貴族様なんだよ。」

「なっ、、、。嘘だろ?」

「ほんとさ。結局、弱い人間ばかりが

犠牲になる。

おれは力が欲しかった。力があれば

何も失わない。そのための力を魔族は

与えてくれる。

平和ボケした人間め、、、てめぇに

本物の力ってやつを見せてやる!!」

その言葉が発せられると同時にやつの

胸付近が怪しく輝きだした。

「その光は、魔鉱石か?」

怪しげな光は巨大な閃光となってやつの体を

飲み込む。

次の瞬間、そこには巨大な魔族が現れた。

やつは跳躍の構えを取ると、一気に

間合いを詰めて来る。

漆黒のランスのようなものを振り回す姿は

トリストンを彷彿とさせる。

ひとつきが巨大な風圧となって周囲の石壁をたたきわる。

その衝撃波だけでも普通の人間ならば

大ダメージを負うだろう。

だが、たたかい慣れているおれに

言わせれば、この程度かわすのはたやすい。

凶器となった風の流れの穴をぬって、

おれはやつのそばまで近付き、斬撃を放つ。

肉を切り裂く感触、明らかに魔族とは

異なる何かへ刃が食い込む感覚は、あまり

気乗りのしないものだった。

やつは苦痛に顔を歪め、忌々しげに

威嚇を始める。

おれはネリーの治癒魔法で体力を補いながら

攻撃を繰り返す。

一体、何度斬撃を加えただろう。

やつは膝をつき、崩れ落ちた。

恨み言も何も言わず、ただ戦いの中で

死んでいった。

その死骸を見つめながら、おれは

力に固執した人間の虚しい最後に

さまざまな思いが湧き上がるのを感じた。


リーニャは魔法使いとしては、あまたの

凡人のはるかに上をいく。努力?研鑽?

そんな生易しいものでは到底超えられない

圧倒的な才能、それが彼女にはあった。

純度の高い魔法の光が宙を踊る。

そのさまは見るものを感嘆させ、

あまりの美しさに言葉さえ忘れて

しまうほどである。

時に美しく、時に激しく魔法の光は

うねり、勢いづき、敵を切り刻む。

剣の男は魔法剣による直接攻撃を狙って

何度もリーニャに接近を試みるが、

魔法の光に邪魔されて、それはかなわない。

その間にもやつの体には無数の切り傷が

生まれ、その命を削っていく。

「くそっ、いやしい人間風情が、、。」

やつは悪態をつき、少し距離をとった。

「これでもくらえや!」

やつは高速で詠唱を始める。

「雷の精霊ドナー、我は禁にふれ、裁きの雷を召喚せん!禁術の17章デレノア!」

やつの手のひらからあふれ出した雷撃は

地を這い、リーニャの心臓めがけて

まっすぐに突き進む。

だが、リーニャには魔法攻撃は効かない。

彼女は魔力を吸収する場を生成すると

自分を覆うように展開する。

その場に入った瞬間、禁術でさえ、

効力が失われた。

いまいましげに舌打ちすると、剣の男は

リーニャめがけて突進する。

リーニャは手を体の前で組み合わせると、

何かを高速詠唱した。

次の瞬間、剣の男の真下から現れた

土の槍が男の体を串刺しにする。

本気のリーニャは怖い、おれはそう思った。


間も無くルイド城は解放され、

かって栄えた魔法剣の大国はふたたび

人間の領土となったのである。

城の解放を見届けると、おれたちは

城から連れ出された人たちの目撃情報

のあったルイドとレムルスの国境付近に

向けて出発した。

「アリー、無事でいてくれよ!」

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