5-13.私ってわがままなのよね
おれが酒場に入ると
一番奥の壁際の席で
アリーが1人うつむいていた。
「どーした?暗い顔してさ。」
おれはつとめて明るく声をかける。
「うん、ちょっとね、、、。」
アリーはグラスに入った酒を
眺めながらぼんやりとつぶやく。
おれも同じものを頼み、
マスターが手際よく酒を注ぐ姿を
眺めていた。
「私ね、魔族が憎くて、あいつらを
倒すためならなんでもできると
思ってた。」
アリーはゆっくりと語り始める。
「だけどね、あの谷で母さんが
殺されそうになった時、私ね、
怖かったの。」
その瞳は涙で揺らめいている。
「母さんを失うくらいなら、こんな
世界なんかなくなってもいいと思った。」
アリーはまっすぐにおれの瞳を見つめる。
「このまま一緒にいると、私はまた
あんたたちに迷惑をかけちゃうと思うの。」
「迷惑なんて思わないよ。
母親を守りたいって思うのは当然だ。」
「ありがとう、優しいのね。
でもね、こんな迷いがある状態で
あんたたちといると不安と申し訳なさで
押しつぶされそうになるの。
だから、少しの間、私を自由に
させて欲しいの。」
「俺たちのチームから抜けたいってことか?
だけど、抜けた後どうするんだ?
まさか、1人でいくとか
言うんじゃないよな?」
アリーは寂しそうな笑顔を浮かべる。
「それしかないの、、、。
わがままだとは思う。
だけどね、私に少しだけ時間をください!」
「‥‥。1人で突っ走ったりしないか?」
「大丈夫よ、何をするにしても
あんたたちと合流するまでは
隠密に戦うようにするから、だから、
お願い!!」
おれは少しの間、思案する。
先日の会議の中では、まず西側ルート
からの侵攻を確実にするため、
マリルを先行して攻略することが
決定していた。
しかし、その間にも旧ルイドで
囚われている人たちの犠牲者は
増えるだろう。
その中にアリーの母親が含まれない
保証などない。
ここで止めてもきっとこいつは1人で
行っちゃうんだろうな、、、。
酒の液面に映るおれの表情からは答えが
出ていることがわかる。
だが、アリーを1人で行動させることは
大きなリスクとなる。
一方で、彼女の感情も大切にしたい。
おれは悩み抜いて、そして結論を出した。
「わかった。単独行動を許す。
ただし、出発前に必ず
リーニャとネリーにも説明してくれ。
あいつらならきっと役に立つ道具や
知恵を貸してくれる。」
「うん、、、ありがとう。
母さんも守りたいし、世界も救いたい。
私ってわがままなのよね、、。」
アリーはそうつぶやくと、おれの手のひらに自分の手のひらを重ねた。




