5-11.永遠に守護するもの
ひんやりとした冷気が肌を撫でる。
土臭い臭いが充満している。
「ははっ、ここが地獄か。
寒いし、臭いし、想像してた通りだぜ。」
おれは溢れ出す涙を袖ではげしく拭う。
「死んでも涙が流せるなんてはじめて知ったや。」
「寒くて、臭くて悪かったな。地上人よ。」
おれはすぐそばで聞こえた声に思わず飛び上がる。
「だ、誰だ!?もしかして、地獄の番人か?」
「地上人とはほんとうに騒がしい生き物だなー。
本に書いてある通りだ。」
そう言って、何かがおれのすぐそばに腰掛ける音が
聞こえた。
殺気のようなものは感じないので敵ではなさそうだが、
おれの頭は状況を理解できずにいる。
「ほれ、飲め。上手くはないが体力回復には最適じゃ。」
明かりがつく。どうやら魔鉱石を照明がわりにしているらしい。
そこには、、、モグラがいた。
「モグラが飲み物持ってきてくれるとか、
こいつはいよいよ混乱極まれりだな。」
「誰がモグラだ、馬鹿者。
私はこの谷を守護する一族のもの、名をティムスという。」
「はぁ、そうですか。モグラ、、
じゃなくて、谷を守ってる?」
「お前があのデカブツを退治したんだろう?
あいつが現れるまではこの地域一帯はおれたちの
住処だったんだ。そういう意味では守っていたというべきか。」
「ああ、ロバンのことか。
ん?おれ、そういえば、あのあとルベルにはめられて、、、。
なあ、おれの仲間は!?リーニャやアリー、ネリーは?」
「心配するでない、皆無事だ。
少し火傷を負っているが、少し休めば
完治するだろうさ。」
「よかった、、。あんたはおれたちを助けてくれた
命の恩人ってことかな?」
そのあと、ことの一部始終を聞かされた。
魔族の魔法がおれたちに降り注いで、連中が
終わったと気を抜いた瞬間を狙って地面を崩して、
このモグラ、もといティムスは俺たちを助けてくれたらしい。
「あれ?ちょっと待て。俺たちが消えたあと、
あの魔族たちはどこに行ったんだ?まさか、リンガルシアに!?」
「そうだ。連中はお前たちが消えたあと、
そのままリンガルシアに侵攻を開始した。
しかし、安心しろ、お前たちが敵に相当なダメージを
与えていたからな、何とか食い止められたようだぞ。」
「よかった。それなら、早く俺たちも街の人たちに
合流しないとな。いつ、また攻撃されるかわからないし。」
「そうだな、ここに長居する理由もあるまい。
仲間が目覚めたら出発しな。」
すぐそばでは目を覚ましたリーニャ、ネリー、アリーが
いたが戦闘で相当なダメージを受けたためか
立ち上がることもできなかった。
そこで、おれたちはその日、ティムスの地下の家に
泊めてもらうことになった。
「地上人よ、おれと少し話をしないか?」
皆が深い眠りについたころ、ティムスがおれを誘う。
彼について土の階段を登り、貿易の谷の崖の上に出た。
「なぁ、地上人よ。この荒廃した世界が見えるか?
かって、我が一族と交流のあったマリルも魔族に攻め滅ぼされ、
美しい街並みは瓦礫の山と化した。」
「ああ、この世界は日に日に滅びに向かってる。
世界を旅してるから余計に感じるよ。
魔族から領土を取り返しても、失われた人の営みは
簡単には再生しない。
人間の領土は拡大したけど、そのほとんどは荒地だ。」
「簡単にはいかないものだな。私たち、貿易の谷を守る一族は長い年月、
この地を守り続けてきた。
しかし、今ではここを行き交う人は消え、
おれたちの一族ももう残り少ない。」
「・・・・。」
モグラは真っ暗な空を見上げる。
「なぁ、おれたちはこれからどうするべきなんだろうな。
あのデカブツが消えた今、おれたちは選択しなければならない。
先祖代々守り続けてきたこの地に止まるか。
全てを捨て、新天地を目指すか。」
「失われた営みはすぐには戻らない。
だが、ロバンが倒れた今、北側国家を人間が取り戻すのも
時間の問題だ。そうすれば、またこの谷を多くの旅人が
渡ることになる。そのとき、盗賊に怯えず、美しく整備された谷を
君達が守ってくれるならそれはきっと最高だろうなと思うよ。」
「そうか、まだ我ら一族は必要とされているのだな。」
「それは間違いないさ。旅人を守る守護の一族よ、おれたちが
きっと世界を変える。だから、もう少しになりこの地の守護をお願いする。」
「ああ、わかったよ。」
夜の世界を覆う真っ暗な闇が、永遠にこの世界を覆うことがないように
おれは、戦い続ける覚悟をあらためて決めたのだった。
旅立ちの朝、ティムス(実は族長、、、)は
リンガルシアにむかうおれたちへの同行を提案した。
「この谷が開かれたいま、お前たちは北側に攻め込むのだろう?
リンガルシアでそのための戦略会議が開かれるなら、
おれも参加させてほしい。きっと役にたつぞ。」
そう言って聞かないモグラをおれたちは最終的に同行させることにした。




