5-9.死闘
「よっ、アリー!ちゃんと父ちゃんと話せたか?」
「もちろんよ!みんなありがとう。」
アリーは母親を守りつつ、後退して戦列に加わった。
「もう結界は解けたはずよ!すぐに攻撃を仕掛けてくるわ!!
あの魔族が父なら、きっと土系統の魔法を多用してくるわ!
ネリー、土属性への耐性強化魔法をお願い!」
「わかった!」
ネリーは素早く、詠唱を終えおれたちは耐性強化状態になる。
「リーニャさん!お願いがあります!私は母を守るため戦えません。
リネスの援護をお願いします!」
「わかりました!任せてください!」
リーニャはいつもの力こぶポーズを決める。
戦いの火蓋はきられた。敵は恐ろしい速度で土魔法を連発してくる。
地割れ、岩石落下、投擲、石の雨など、こんな土魔法があるのかと驚く。
「リーニャ!正面からじゃ近付けない!側面から挟撃しよう!」
「はいっ!!」
おれは右、リーニャは左に移動して、
左右から風属性の魔法攻撃を仕掛ける。
「風の精霊ヴィント、我が声に従え!!
うつくしき風の刃よ、邪悪なるものを刻め!」
無尽蔵に風の刃が生成され、ロバンへ襲いかかる。
しかし、ロバンは対魔力仕様の分厚い膜で覆われており、
遠距離からの魔法攻撃は通じないようだ。
「リーニャ!敵の気を引きつけてくれ!!
直接、魔法剣を打ち込む!!」
「はいっ、任せてください。
火の精霊フォイア、我が声を聞け!
猛りし炎よ、邪悪なる存在に脅威を!!」
リーニャは、直接攻撃ではなく、敵の近距離で爆発を起こす
炎系の魔法でロバンの注意を引きつけてくれた。
その隙におれは奴の背後に回り込むと、大きくジャンプして
対魔力装甲のない部分へ光の魔法剣を打ち込んだ。
ロバンは膝をつき、一時的に動きが止まる。
ネリーは隙を見て、敵の瞳に目掛けて劣化魔鉱石による攻撃を
仕掛けている。残念だが瞳に直撃しているものはない。
しかし、装甲の隙間から侵入した劣化魔鉱石はロバンの体力を
確実に削っているようだ。これは行ける!と確信した。
だから、おれは全力でやつの胸の真下まで飛びかかり斬撃を
食らわせようとした。しかし、次の瞬間、巨大な腕の一振りが
おれを直撃する。ロバンは怒り狂ったように叫び声をあげる。
やつは拳を地面に叩きつけ、岩塊をえぐりとる。
そして、それをおれやネリーに向かって投げつけてきた。
「リーニャ、アリー!!最大火力だ!!
あんなのに潰されたら間違いなく死ぬぞ!!」
「火の精霊フォイア、我は禁に触れ全てを焼き尽くす炎の雷を求めん!!
禁術の第90章ゴルデア!」
アリーは禁術、おれたちは炎系の高等魔法を空から落ちてくる巨大な
岩塊にむけて放った。巨大な爆音とともに岩塊はくだけ、谷底に落ちていく。
落下してくる石つぶてはネリーの防御魔法で防ぎつつ、おれは次の戦略を練る。
「くそっ、やっぱり、司令魔族だと一筋縄ではいかないな。
リーニャ、やつの動きをしばらく封じることってできるか?」
「風の精霊系統の魔法であれば少しは抑えられると思います。
でも、ほんとに少しだけです。」
「わかった!ネリー、アリーと交代してくれるか?物理攻撃で攻めたい!」
「オーケー!わかったよ。アリー、前衛をお願い!」
「ネリー、母さんのこと頼むね!」
おれは正眼に愛刀をかまえる。そして、アリーは八相の構えをとり、
攻撃の機会を伺う。
「それでは行きます!!」
リーニャは風系統の魔法でドーナツ状の風の束を生み出して、
それをロバンに向かって投げつけた。
束はロバンに触れると解け、やつの体に絡まり、動きを封じる。
その瞬間、おれたちは駆け出した。
一瞬で間合いを詰めると、2人同時にロバンの胸に向かって攻撃を
集中させる。連携のとれた連撃は相手の心臓を穿つ勢いでダメージを与える。
「いまなら動きの鈍い攻撃も当たりそうだな。」
アリーと再び交代したネリーはおれのその呟きを聞いたらしい。
「どういうこと?あんまり無茶したらダメだよ?」
「ああ、心配してくれてありがとう。だけど、大丈夫だ。
おれの中には怒りや憎しみが渦巻いていて、その力を攻撃に変換できるのは、
前にトリストンやルベルとの戦闘でわかったんだ。
もう一回あの攻撃を仕掛ければロバンの強固な守りも突破できると思う。」
「リネス、どのくらい時間を作ればいい?」
「発動までには時間はそんなにかからないんだ。
ただ、意識を感情に集中させるから攻撃が遅れる。
だから、おれが動き出したらやつの動きを止めてほしい。」
「オーケー!リーニャにも伝えてくる。」
ネリーはそういうと、リーニャのところにかけていく。
ネリーとリーニャは魔法発動に向けて、詠唱の体勢に入った。
おれはそれと同時にトリストンやルベルへの憎しみ、
かってレムルスで受けた苦痛を想起し、エネルギーに変換する。
剣にみなぎる漆黒の魔力を確認したのち、おれは全力でロバンに突進する。
リーニャはさきほどの風魔法でロバンを拘束し、
ネリーは敵の動きを落とす補助魔法を使っている。
そして、おれの振り下ろした剣はまっすぐにロバンの後頭部へ直撃する。
剣はやつの装甲を打ち抜き、その外殻を粉々に砕く。
そして、大光量の爆発がおれたちを襲った。




