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5-8.世界を守る決意

毛布にくるまったときのことを想像してほしい。

私はいま、そんな優しい温もりに抱かれて、何もない宙に浮かんでいる。

風もなく、光もなく、ただ堕ちてゆく誰かの意識に

寄り添っているような感覚だった。

ふと、右手に感じる人肌のやわらかさに気づく。

そっと、抱き寄せるとそれは母だった。

歳をとり、足腰が弱くなった母だが、昔の美しさを失わず、

その姿に密かな憧れを抱いていた。

「アリー、よく来てくれた。まさか、母さんまで一緒だとは

思ってもみなかったよ。」

懐かしい声だ、ふんわりとした穏やかな、全てを許してくれる声だ。

もう聞けないと何度も涙したその声は私と母の鼓膜をやさしく撫でる。

母にもその声は聞こえたようで、辺りをキョロキョロと見回す。

「母さん、父さんならあそこだよ。」

私は視線を母さんと同じ位置にして、綺麗な光の球体が浮かぶ場所を指さす。

「あ、、あなた、、。そこにいるの?」

「母さん、僕ならここだ。ずっと苦労をかけてすまない。

無事に帰るという君達との約束を果たせなかった。」

母はポタポタと涙をこぼす。

嗚咽の中にそんなことないと何度も繰り返す声を聞いたとき、

私も涙を抑えることができなくなった。

「この日のためにずっと意識をここに縛り付けていた。

魔族を抑え込み、その侵攻を少しでも遅らせる。

そして、君たちに世界の真実を伝えるために僕の意識はここにある。

アリー、母さん、聞いてくれ。」

父は少し沈黙して、言葉を選ぶ。

「この世界は滅びに向けて少しずつ進みつつある。

そして、その引き金はもう間も無く魔族によってもたらされる。」

「魔族が?どういうこと?」

「アリー、ゾネの石版は知っているね?」

「ええ、先日、時間迷宮で見つかったものよね?」

「そうだ、あれは巨大な魔力源への道を封印するものだ。

世界に満ちる魔法を発動させる元になる力の源たるそれは、

『魔源』と呼ばれ、かってのレムルス帝国で発見された。

レムルスの皇帝はその源を隠し、鉱物の中に宿すことで

強力な魔力源とする魔鉱石を生み出し、それを世界へ広げた。

魔鉱石は莫大な富をレムルスにもたらし、同時に多くの野心と陰謀のタネを生み出した。」

「魔鉱石による強化人間計画、、、。」

「そうだ。あの計画は人間に魔鉱石を移植することで、

魔力の強化された兵士を増産する計画だった。

そして同時に、その逆の計画もスタートしていた。」

「逆の計画?魔源に人間を食わせるということ?」

「そうだ、魔源に生贄として生きた人間を捧げることで、

莫大な力が生み出される。

かってのレムルスはその力を利用するために強化人間計画を立てた。」

「そういえば、まだ魔族が現れるずっと前にリメリスやマリルで

誘拐事件が頻発してた時期があったわね。まさか、、、。」

「うむ、犯人はレムルスだ。皇帝は3枚のゾネの石版を用いて、

魔源をレムルス帝城の地下空間に隔離した。

そしていま、魔族がそのうちの2枚の石版を手にしてしまった。」

「魔族はその魔源の力で人間に対抗しようとしているってことよね?」

「ああ、そうだ。魔源の活性化のためには生贄たる人間が必要。

しかし、魔族は連合本営を落とした際、複数の人間をさらって

その贄すら手に入れてしまった。もう時間がない。」

「待って父さん!でも、ゾネの石版はまだ一枚あるわ。

私たちが時間迷宮で手に入れたのが!それさえ、死守できれば望みはある。」

「残念だがその一枚は先日、魔族によって奪われている。そして、最後の一枚だが、

私が所持している。

私が魔族化する際、体内に封印したからね。

いまから外に出て私を倒してくれ。

そして、連中に奪われる前に石版を手に入れて欲しい。

それが世界の破滅を救う唯一の手段だ。」

私は母さんと視線を合わせ頷く。

「父さん、任せて!私がきっと世界を守ってみせる。

父さんが生きたこの世界を魔族なんかに滅ぼさせたりしない!!」

「ありがとう、、、。」

「父さん?」

「もうお別れのようだ。土の精霊よ、最後に妻と娘に会わせてくれたこと感謝する。

アリー、母さん、さようなら。」

私も母も必死で父さんの名を呼ぶ、どんなに愛しているかを叫んだ。

これが最後だから、全部の思いを吐き出して、父さんの笑顔を目に焼き付ける。

父さんは優しくて、多くの知識を持っている。

私たちのことを慈しみ、話を聞き、たくさんのことを教えてくれた。

そんな人との別れだから、私は涙ではなくてたくさんの感謝を込めた笑顔で

別れを告げる。

真っ白な光が父さんの体を包み、少しずつ私の意識が覚醒に向かう。


やがて、視界がはれると、目の前には立ち上がったロバンがいた。

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