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5-7.別れの決意

アリー!と私の名を呼ぶ声が聞こえる。

その声はあたたかで、どこか懐かしいあいつの声だ。

大好きなあいつが私を呼んでいる。

意識はその声を(しるべ)にぐっと水面に浮き上がるように覚醒する。

「わ、私は、、、?」

「大丈夫かよ?いきなり戻ってきたと思ったら、倒れて目を覚まさないし

びっくりしたんだぜ。」

あいつは泣きそうな顔で私の頭を撫でる。

「あんたも女の子に優しくできるのね。」

「さいきん、モテてたからな。男子力が上がったらしいぜ?」

「その返し方がすでにアウトよ。」

私はクスッと笑い、その大きな手を握る。

そして、決意する。目の前のどこか頼りないこの男や、

ネリー、リーニャ、帝都の人々の未来を守るために、父さんを消滅させることを。


帰ってきたアリーから状況について説明を受けた。

魔族ロバンは自分の父親が元になった魔族であること、

彼を救うには殺すしかないことなどあまりに

残酷な情報が語られ、おれたちは黙り込む。

「アリーさんはどうしたいですか?私は無理にロバンを殺す必要はないと思います。

東側ルートから攻め込めば、多くの犠牲はでますが

突破することは不可能ではありません。」

「でも、それだとたくさんの人が死ぬのよ?」アリーは涙声で答える。

「誰も、自らの幸せのために他人を犠牲にすることは許されません。

そんな犠牲の上に立つ幸せなど、憎しみや苦しみしか生み出しません。

私は過去の歴史の中で、そんな辛い出来事をたくさん見てきました。」

おれはアリーにかけるべき言葉を探す。

ただ、どんなに考えてもやはり同じ結論にしか達しない。だから、おれは口を開く。

「アリー、この件についてはお前の決めた通りに動く。

たとえ、東側ルートを選択することになってもおれが皇帝に説明する。

だから、時間をかけてゆっくり考えてくれていい。」

「なにカッコつけてんのよ、、。でも、、ありがとう。」

アリーは涙を浮かべながら、にこっと微笑む。

それから、おれたちは帝都への報告を済ませ、再びリンガルシアに戻った。

アリーは母親と話がしたいと言ったので、しばらく自由にしてもらっている。

冬のリンガルシアは吹き付ける風が冷たい。

ひんやりとした風が大地を舐め、生命は枯れてゆく。

それはこの世界のようで無情で無常なそんな人に厳しい様をあらためて気付かせてくれる。


アリーが母親と今後のことについて話している間、おれたちは休暇扱いとなった。

各自が思うままに過ごしている。

ネリーはリンガルシアの市場へ頻繁に出かけていった。

胃袋からみんなを元気にしたいと、ネリーらしい気遣いを見せていた。

リーニャは、かっての敵国の発展の様子を目に焼き付けようとネリーと街へ出かけたり、

町外れの丘の上から町全体を眺めたりしている。

そして、おれは武器の手入れくらいしかすることがないので、暇を持て余す。

その日も夜の手持ち無沙汰に耐えかねて、おれは宿舎から歩いて数分の広場に向かった。

ただ、なんとなくそこに行きたくなっただけなのだが、

広場でアリーを見つけた時には宿命めいたものを感じてしまう。

「よっ。久しぶりだな。」

「、、、。久しぶりね。いつも一緒にいたから、ほんの3、4日離れるだけでも

ずっと会ってない気分になるのって不思議だわ。」

「そうだなぁ。はじめて会った時のこと覚えてるか?

あの時はこいつはすげぇ女だと思ったよ。

盾一枚で魔族の攻撃をがっちり真正面から防いでるんだから。あれからずっと一緒か。」

「もちろん、覚えてるわよ。魔族相手に無茶してる物好きがいると思ったわ。

それが今では司令魔族相手にドンパチやろうとしてるんだから、感覚が麻痺しそう、、、。

私ね、母さんと話して決めたよ。ロバンと、、父さんと戦う。

父さんを救うのは私たちしかいないって思うから。他の誰にもやらせたくないもの。」

「、、そうか。」

「しんみりしないの。ちゃんと話し合って決めたから、大丈夫よ。

1つだけおねがいなんだけど、谷に母さんを連れて行ってもいい?

護衛はもちろん私がするわ。」

「ああ、構わないよ。明日集まるか?」

「うん!明日みんなを集めてもらってもいい?」

明日、リンガルシアの司令部で会う約束をしておれたちは別れた。


翌日、おれたちはリンガルシアの要塞の中央に設置された司令部に集まっていた。

「遅れてごめんね、みんな揃ってるかな?」

アリーは辛そうな顔で笑っていた。しかし、その中に確かな決意が現れている。

アリーに続いて、気の優しそうな女性が現れる。

どこか品のある優しげな目元、アリーと同じ美しい燃えるような髪色、

この人がお母さんか。とそんなことをおれは考えていた。

アリーのお父さんの失踪で心を患ったと聞いていたが、リンガルシアで

過ごす中で大分落ち着いたとのことだった。

そのあとは、アリーがロバンを倒すことを決意したことを皆に伝え、

母親の同行についてみんなの承諾を得るという流れとなった。


そして、決戦の朝を迎えた。

おれたちはおのおの貿易の谷の入り口に集合した。

そして、灰色の岩の大地を踏みしめて行進が始まる。

すぐに見えてくるロバンの巨大な体、まるで眠っているかのような規則的な呼吸音、

これがかってはアリーの父だったなどと誰が信じられるだろうか。

「みんなは少し離れてて、私と母さんで父さんと話してみる。」

アリーは母親を連れて、ロバンの正面に立つ。

そして、土の精霊の加護の宿る宝玉をかざす。

すると、そこから溢れ出した光は、アリー、母親、そしてロバンを包み込む。

「くっ、眩しい!リネス、アリーたちは大丈夫かな?」

「わからんが、あいつならきっとうまくやってくれる!」

おれたちはその光の洪水に目を背けながら、ひたすら待った。

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