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4-6.時の賢者リーニャ

柔らかくて暖かいそんな何かが頰にそっと触れる。

目を覚ますと幻想的で儚げな笑みを浮かべた少女がおれの頰に触れている。

オレンジの髪を後ろで束ね、古びた布をまとった少女だった。

その姿からは想像できない圧倒的な魔力におれは驚き、少し距離を取る。

「助けてくれたのか?あの場所に囚われていた子だね?」

少女はこくんと頷く。そして、にこっと優しい笑顔を浮かべる。

「ここは、、、?あいつらは、、、?」

少女はおれの背後を指差し、あっちですと小さな声で答える。

後ろではアリーとネリーが気を失って倒れていた。

「あれ?傷が消えてる。君が治してくれたのか?」

少女はこくんと頷き、力こぶを作ってみせる。

たぶん、あたしすごいでしょー的なことだと思うのだが、

これはどうしてなかなかぐっとくる。

「魔族が君のことを賢者って呼んでたよね?時渡のリーニャって君のこと?」

「はい。私がリーニャです。勝手に転移させたの、、、ダメでしたか?

ところで魔族って何ですか?」

少女は小声で自信なさげに言葉を紡ぐ。

視線が落ち着かなげにあちこちをさまよっているので、どうやら人見知りらしい。

「魔族っていうのはいまは悪い怪物で、人間の敵とだけ理解していてくれれば良いよ。

とにかく、助かったぜ。ありがとな。」

おれはお礼を言うと、2人をゆり起こす。

「あれ、デレ目?なに、天国のお迎えがあんたなんて最悪ね。」

「ここは天国でなくて地獄だぞ?」

「嘘ね、私が地獄に落ちるはず無いもの。」

「何の自信だよ。まぁ、いいや。そこのリーニャが助けてくれたんだ。」

次に目を覚ましたネリーもここは天国ですか?というおきまりの流れをしたのち、

リーニャに気付いたようだ。

「君があの有名なリーニャさんだね?

道を外しそうになった時渡の人々を導いて、

時間迷宮を創造した偉大な賢者様だよね?」

リーニャは唇に人差し指を当てて、斜め上を向き、少し困った顔をした。

「ううん、、、違います。私は国を滅ぼした罪人です。」

「え!?」

3人の息ぴったりの驚きにリーニャは困った顔をする。

「戦争が、、嫌になったんです。ずっと殺しあって、毎日毎日誰かが死んで、、。

私の兄さんだって、、。だから、みんなここに閉じ込めたんです。」

少女は小さな瞳を涙で濡らしながら、言葉を続ける。

「時の精霊様の力を破壊や殺戮に使うみんなを止めなきゃと思ったんです。

でも、誰も私の言うことを聞いてくれなくて、、。」

「導いたのではなくて閉じこめたということ!?」

「はい。閉じこめたことにみんなは怒りました。

私を封印して、この迷宮を突破しようとして失敗しました。

みなさんも死してなお浄化されぬものを見ましたよね?

あれは昔の、、時渡の人々です。」

なかなかどっしりくる事実を伝えられ、アリーとネリーは唖然としていた。


「さっきの魔族には力を無理やり使われていた感じ?」

「はい。力を何度もつかわれたせいで、私は目が覚めたんです。

それで、、、いまあの魔族とみなさんを空間的に分離しています。」

「なるほど!だけど、あんまり猶予は残されてないみたいだね、、。」

すぐに魔族の追撃は再開された。空間に生じた亀裂を押し広げて、

マルサスとルベルが現れた。

「リネスさん、私は魔法も前衛もどっちもいけます。」

「わかった。でも、危なくなったら後方に下がってくれよ。」

「はいっ!」

にこっと嬉しそうにリーニャは微笑む。

「あっ、そうだ!転移妨害魔法は解除しておきました。」

「あなた、なんだか楽しそうね!ま、まさか戦争狂の賢者様とか、、、じゃないよね?」

「戦争狂じゃないです!!誰かと一緒に戦うのが久しぶりなので、、、

なんだかワクワクするんです。」

リーニャは力こぶを作ってみせる。

「リネス、あの子、容姿からは想像できないくらいの魔力を持ってるし、

冷静だしさすが賢者様だよね。」

「ほんとだな、突進狂と頭脳派、慎重派に加えて、

万能型がいれば最強のパーティだ。」


マルサスは少し距離をとった位置まで近付くと、地面に腰を下ろした。

ルベルは漆黒の禍々しい爪をのばし、おれたちの前まで進む。

「さて、私がお相手いたしましょう。そこの賢者についてはまだ利用価値があるので、

生かしておきましょうか。他は皆殺しですね。」

ルベルはゆっくりと腕を上げ、その腕をおれたちに向けた。

やつが得意とする火炎系の禁術が放たれる。

巨大な火の玉が高熱を撒き散らしながら襲いかかってくる。

「時の精霊ツァイト、我が声を聞け。

時失われし監獄にかの力を封じたまえ!」

リーニャは先ほどまでのオドオドした印象はどこへやら、

美しく響く声で魔法を唱えた。

空間に亀裂が入り、巨大なブラックホールが生まれ、ルベルの火球を吸い込んだ。

「ええい、鬱陶しい魔法を、、。

ならば物理攻撃で殺すまで!」

ルベルは一瞬で俺の目の前まで迫ると、強烈な殴打を食らわせてきた。

愛刀で受け流し、身をひねって攻撃をかわす。

「食らえ!!マリルの恨み!」

アリーの故郷はルベルにより滅ぼされている。

当人はそれほど気にしていない様子だったが、やはり思うところはあるらしく、

光属性の槍攻撃が猛烈な勢いではなたれる。

美しい光の槍がルベルに突き刺さる。対魔力装甲には傷をつけられないが、

装甲の隙間に突き刺さった槍はルベルに確実にダメージを与えたようだ。

状況をあまり芳しくないものと判断したらしいマルサスが立ち上がり、

アリーたちに攻撃を仕掛けようとする。

しかし、リーニャが立ちはだかり、淡い光を放つ棒状の武器で応戦する。

マルサス-リーニャ、ルベル-おれ、アリー、ネリーは援護という形で戦闘はしばらく続いた。

徐々に体力を削られていたおれは危機感を抱く。

このままでは負ける。見た所、リーニャも優勢というわけではなさそうだ。

おれはトリストンを倒した時の感覚を思い出そうとする。

渦巻く怒り、沸き立つ憎悪、おれの中のそれらの感情が巨大に膨れ上がり、

愛刀に流れ込む。鈍い光を放つその剣を滑らかな軌道で滑らせ、

ルベルの胸部を撫でる。

次の瞬間、ドシャという音とともに、どす黒い血が溢れ出す。

「なるほど、トリストンは、、、この力で果てたのですか!?」

ルベルは荒い呼吸の中で絞り出すように声を発する。

「マルサス、一旦撤退すべきです。想定外の攻撃を受けました。」

「うむ、私も確認したが今の力は我ら魔族に

通じるものがあった。未知の力を前に無策であるのは好ましくない。」

そう言うと、マルサスは不可視の剣を地面に突き立てる。

次の瞬間、割れた地面から光が四方に溢れ出す。そして、やつらは消えてしまった。


「ちっ、逃げられたか。あと少しで勝てたかもしれないのにな。俺たちも帰るか?」

「あっ、待って、、ください。」

「どうした、リーニャ?」

「この先にかっての時渡が蓄えた財宝があります。皆様の旅にきっと役に立ちます。」

なぜかリーニャは、ネリーの手を握っている。安心するのだろうか?

「ネリー、リーニャと仲良いんだな。」

「なんだか、懐かれちゃって。」

「なにデレ目?妬いてるの?」

「なんだ、さっきのやり返しかよ。

1つ言っておくがおれは決してロリコンではないから!」


リーニャに案内され、重たい鉄製の扉をあけると

そこにはいくつもの宝箱、剣、鎧が保管されていた。

「転移時の負荷が大きいので、全て持ち帰るのは不可能ですが、

これはどうでしょうか?」

リーニャはそう言うと、赤塗りの小さな盾を取り出す。

「これは結びの盾と呼ばれていました。

攻撃を受けた時にダメージを吸収、所有者の体力に変えます。」

「おお!それはすごい。ほんとに古代の技術はすごいんだな。」

「時渡は精霊力を利用した技術国家だったので。」

おれは感心しながら、辺りを見回しひときわ目をひく宝箱に近寄る。

「リーニャ、これは?」

「それは太陽の石版をおさめた箱です。

太陽の精霊ゾネの加護を受けたもので、約束の台座にはめることで、

古の闇を目覚めさせるといわれます。」

「太陽の石版っていうと、その鍵は連合本営で保管してたはずだよね?」

ネリーがふと思い出したように言う。

「そうね。でも、先日誰かに盗まれたと言う話よ。」

アリーが言葉を続け、ふと気づく。

「ん?これってすごくまずいことじゃないの?

司令魔族が2体もここに来てたのってもしかして、石版が狙いだった?

なくなった鍵は魔族が持ってるのかな?」

「もし、アリーさんの言う通りであれば脅威です。

これも私たちで持ち帰ったほうがいいかもしれません。」

「ああ、わかった。」


時間迷宮を脱出するにあたってリーニャからの要望により、

おれたちはネリーが死怪を封じた場所に寄り道することになった。

「ネリーさん、それでは魔鉱石を取り除いてください。」

「ちょっと待って!リーニャ、そんなことしたらあの大群が一気に出てくるわよ!?」

「アリーさん、大丈夫です。浄化自体は一瞬で終わりますから。」

ネリーは呼応魔法によりさきの魔鉱石のありかを確認し、石を取り除いた。

その瞬間少し離れた場所から死怪がうじゃうじゃと湧いてきた。

リーニャはそっと目を閉じると、祈りを捧げるように、胸の前で手を合わせる。

「聖域の精霊ハイリヒトゥームよ、我は禁に触れ、さまよう魂に安らぎの眠りを与えん。

禁術の第10章テミス。」

あたたかな光の球体が現れる。

そして、空間全体にまるで光が染み込んで行くように広がっていく。

あたたかで優しい子守唄のようにその光は死怪を包み、優しく浄化する。

「みんな、ごめんなさい。許して。」

リーニャは小さな声でつぶやく。


死怪が消えたのち、おれたちは、戦利品をかかえて時渡の遺跡を後にした。

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