2-8.破壊の魔法
司令魔族は魔族の最上位に君臨し、その体から放つまがまがしい魔力は、
少し鋭い嗅覚を持つ赤目であれば追うことも可能だ。
おれは奴の後を追い、やがて巨大な集団墓地にたどり着いた。
「ああ、いまいましい人間が!
たかだか人の子に負けたとあっては、
私は同族から永遠にバカにされてしまうんですよ。」
少し小高い丘に、瀕死の司令魔族は佇んでいた。
「ここにはおもちゃがたくさん眠っているようですね?
ひひひひっ、死してなお弄ばれるいやしい人形の相手でもしていなさい。」
トリストンは呪詛と呼ばれる闇属性の魔法を好んで使う。
おそらく、墓地に埋葬された屍に何か行ったのだろう。
暮石が割れ、地面の下から魔族に殺された兵士たちが何百と現れて、
おれに襲いかかってきた。
「聖域の精霊ハイリヒトゥーム、我は汝の祝福を求めん。
ことわりなき魂に安らぎを、生者に祝福を!」
おれは体から湧き出す魔力を、詠唱の中に惜しみなく注ぎ込む。
それでもなお、底の見えない魔力が湧き上がってきた。
屍兵は一瞬で浄化され、元の静寂に包まれた墓地に戻った。
「朽ちた屍では相手になりませんか?それではこれでどうでしょうか?」
トリストンは長文詠唱を始めた。おそらく、禁術を使う気だろう。
おれはそっと、右手をやつに向けて唱える。
「聖域の精霊ハイリヒトゥーム、我は禁にふれ、汝が力を行使する!
聖域よ、絶対の領域よ、魔封じの領域の形成を。禁術の21章クレア」
魔法の行使を封じる結界をトリストンに貼り付けた。
その瞬間、詠唱をくだかれたトリストンに明らかな動揺が広がった。
「人間の分際で、我ら魔族の力を封じるだと!?貴様何者だ。人間ではないのか!?」
「元人間だぜ?一応な・・・。」
おれは空を見上げて、徐々に蘇る記憶に戦慄する。
あまりに空想的で、あまりに不条理なその内容を噛み締めながら、
おれは目の前の司令魔族に死の宣告を放つ。
「消えろ、卑しい魔族。カイザー!!!!」
その時のおれは不思議な力に飲み込まれていた。
魔法でも禁術でもない不可思議の力を短文の詠唱だけで操った。
「これは・・・、なんですか・・・?体が焼ける!!体が、体がぁ、、ギャー!!!」
トリストンの断末魔の叫びは虚しいものであった。
手のひらから現れた光は巨大な波動となってその一帯を包み込む。
トリストンを含めてあらゆる魔族がその光に触れた瞬間に浄化されていった。
光は空と地をつなぐ巨大な柱となり、帝都からもその光景を見ることができたという。
やがて、静寂に支配された墓地が戻ってきた。
突然降り出した雨の中、おれは意識が朦朧として、その場に倒れた。