2-7.信頼
強烈な禁術の衝撃が突然止まった。私は目をそっと開ける。
そこには真っ黒な血を吐き、膝をつくトリストンの姿があった。
「ひひひひっ、なんですか。その力は!?
この私が傷を負うなんてありえな・・ごふっ。やむをえないですね。ここは一旦撤退としましょうか。」
そう言い残して、すべての災厄は姿を消した。
「あんた、どうやって目覚めたの!?」
私は自分の目を疑った。呪詛に囚われたはずのリネスが意識を取り戻していたのだ。
「俺にもわからん。だから説明もできない。そんなことより、
おれはやつを追う・・・。やつだけは許さない。」
そう言ってポケットに手を突っ込み何かを取り出す。
差し出された手のひらにあるものを見て、私はリネスが何を望んでいるのかを知った。
「リメリスの髪飾り・・・。わかったわ。ミーシャのこと、レジスタンスのことは私たちに任せて。」
「リネス、ミーシャちゃんを助けてから、みんなで追いかけるわけにはいかないの?」
ネリーが心配して声をかけてくる。
「いや、あの災厄は息の根を止めないと、同じようなことを繰り返す。
だから、奴の傷が癒えるまえにとどめを刺してくる。みんなはミーシャたちのことを頼む。
俺は大丈夫だ、奴は深手を負っている。いまなら勝てる。」
「でも、あいつは司令魔族だよ?!人間が束になってかかっても傷一つ与えられない化け物だよ!?」
「だけどな、ネリー。おれは傷を与えて見せたぞ?今は体に力がみなぎってるし、
奴の息の根を止めるなら今しかない。」
「でも!でも、何が起こるかなんて分からないし!」
必死で止めるネリーの肩に私は手を置いた。
「わかった。行って来なさい。でも、約束して、絶対死なないって。」
「ああ、・・・・・約束だ。それじゃ、行ってくる。」
「アリー!何を言ってるんだ。待って、リネス!」
ネリーの必死の制止を振り切ってリネスはトリストンの後を追い、飛び出していった。
どうして行かせたの?と問いたげな視線を感じた私はそっと呟く。
「なぜかしらね。あいつならきっとなんとかしてくれるって、そんな風に思っちゃうんだ。」