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1 家路

久々の執筆です。毎日更新を目指し頑張ります!

 


「ぐ、………っはぁ!」

 ひとりの男が苦しそうな声を漏らし草草の上に倒れこむ。よく見れば男は一人ではない。月明かりも届かないような木々の影に、彼らは自らの体を抱きながら、悔しそうに唇を噛んでいる。

 薄暗い山道。

 彼らの身なりは、よく人を襲ってはその身ぐるみを剥ぐそれとよく似ていた。というより、まさにそれだろう。

「くそ、………この餓鬼。今に痛い目に!」

 男は自分を地面に這わせた相手へ腹立たしげに言い放つ。

 そして、起き上がる事もせず、目の前に立つ人影へ、男の口端がにやりと吊り上がった。

「………………ほぉらな」

「………は?」

「ガキは寝てろ!!」

 がっ、という音とともに地面がえぐれた。

 現れたのは一つの斧。違う。それを地に振り下ろし土を抉ったのは、熊とも見間違う大柄な男だ。

 その斧は偶然にも的を外れ、地に突き刺さった。ソレは果たして偶然かどうか、尋ねなくともすぐにわかる疑問だった。

 自らの倍はあろうという男を前に、人影は未だ憮然と表情を変えない。

「………」

「なんだ小僧?この俺を見て言葉もないか?」

 大男の質問に答える風もなく、人影はぽつりと口を開いた。

「いや、………あんたがかしらかなって、思っただけ」

 そう。

 本当に、ただそれだけ。

 男はその恐れを感じられない言葉に、不快だと言わんばかりに目を吊り上げる。

「そうだ。俺が頭だ。けどなぁ、だったら何だぁぁ!!!」

 ぼこっと音をたて、地に食い込んだ斧を引き抜くと、男は声をあげ目的物へと飛びかかった。斧を振り上げ、力任せにまたそれを振り下ろす。

 その、何とも真っ正直な突撃に、“小僧”とやらはただ茫然とそれを見上げる。

「死ねぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 男の叫びは木々をざわめかした。

 そのざわめきの中を、一つの風が、滑るように吹き流れた。その風が放ったのは、たんっ、とん、たんっ、というきりのいいリズム。そしてそのリズムの最終点は、どかり、というなんとも間の抜けた音。

 その音の上には、大男が草の上で顔をゆがませ転がっていた。

 彼は「ううっ」と苦しそうに唸り上を見上げる。

 ―――キラリ

 銀色の何かがきらめいた。

「・・・っうわぁ」

 鼻筋にあてられたナイフに、男は情けない声を上げる。

 人肌など簡単に凍えさせてしまいそうな冷たさと鋭さ。それがまさか自分へと向けられるとは思ってもいなかったのだろう。

 鼻筋に向けられた切っ先に視線を奪われたまま、族の頭であろう大男は大人げなくも狼狽した。それを見下ろす人影は、月を左肩に背負い、相も変わらず先ほどからの変わらぬトーンの声でこういった。

「頭をつぶせば早いかなって、」

 影に沈んだ水色の双眸は、その色を強くして、冷たい光を発した。だがそこには殺気も何も感じられない。ただ目の前に石があるからどけるだけ、とでも言うかのよう。

 男たちは殺意のないその瞳に、更に怯えるだけだった。


「逃がしてあげるなんて、カイも随分優しくなりましたね」

 山賊に襲われ、早々と夜闇の中へ身を隠していたミネが姿を現す。月明かりの下に現れた少女の髪は、あわい明りに黒く輝く。

 その少女の出現と発言に、カイはただ頭を掻いた。それとともに、後ろで小さく束ねられた短い髪がばらばらと揺れる。

「逃がしたんじゃなくて逃げたんだよ」

 ミネは口元に手をあてくすりとほほ笑む。

「全く、そんな事を言っていないで足の一本や二本くらい獲ってやればよかったんですよ。簡単でしょう?」

 さらりと恐ろしい事を言う幼馴染おさななじみに、カイは軽く目を座らす。

「あら、何か」

「いや、何も」

 カイはミネの恐ろしさをよく解っていた。だからかこれ以上はなにも言えない。

「なら行きましょうか」

「…うん」

 カイが彼女に頭が上がらないのはいつものことだ。二人の上下関係は一目瞭然。

 その上下関係を、枠の外からじっと見つめるのは一匹の狼。彼はミネとカイの後ろを、一定の距離を保ったまま歩き続ける。その様子はまるで保護者か何かのよう。

 彼らはまだ日の出ることを知らない道を、警戒心もおろそかに歩いている。だから族などに襲われたのだが…。

 ミネは、隣を歩く自分より少し目線の低い水色の髪の連れを盗み見て微笑んだ。

 自分がこうして夜道を行けるのは、他でもないこの水色がいてくれるからだろう、と。

「さて、明日の朝にはつくといいですね」

「うん」

 カイとミネは、自分たちの町であるセンリルへと、なんとものんびりと道を行く。



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