八節 なんでもない
繰り返し、くりかえし。君は再び彼女に出会って。
繰り返し、くりかえし。君は再び未来、過去、今と語る。
街中歩く君のそばに、再びわたしは歩いてく。
横目に倒れる君をみて、助ければよかったと後悔して、未来は失せて、君もきっとめった斬り。
そんな回想をしながらフードの外に広がる風景を覗いていた。君はなんとも睦まじそうに未来と話を弾ませて、少し嫉妬をしてしまう。けれどもわたしは泥人形。君に語り掛けることもできない。だけどほんの気まぐれに君に話しかけたくなった。手を伸ばしたくなった。
* * *
背中に正体不明の寒気がして。手を伸ばされてそのまま縊り殺されそうな。
それがなんだか解らなくて気持ちが悪い。いや、これを恐怖というのだろうか…?
「オウカ!下がりなさい!」
気が付けば彼女を庇ってそれに向かって叫んでいた。たいそうそれは驚いたようで伸ばした手を止めていた。
「スクルド、いきなり叫んでどうしたの?彼女がどうかしたの?」
疑問符だらけのオウカは何も感じていないよう。私だけ…?
「怖がらなくてもいいよ。わたしは単になんでもないだけだから。」
それは視界を開けるようにフードの端に指をかけた。
* * *
それはいつか読んだ、読んだ記憶がないから備わっていた知識かもしれない。けれど知っていたそれはわたしに酷似していると思った。神々に作られた兵器、人と神をつなぎとめたそれと、彼女と彼女をつなぎとめるわたし。自己など持たない彼女の人形、神々の命でしか動かない泥人形。
やっぱり、そっくりで思わず安堵してしまう。わたしだけでなかったと、わたしは人の初めてではないのだと。
それにわたしは敬意を表して、羨望も現して、わたしはそれからこう名乗る。名前はないけれどこう名乗る。
「エルキドゥ。神と人の接ぎ目のなんでもない土くれ人形。」
どうぞよろしくなんて彼女と未来に言ってみる。