七節 城内、*回目
ふと、起きるとそこはまた見慣れた監獄の城の中。ここでの夢はやけに心情に溢れていて自分の感情だけでも吐き気がする。最後の記憶にあるのは憎悪。それと哀しみ。もうその心情の持ち主のことは覚えていないけれど、夢なんてそんなものだ。儚くて、記憶の一瞬しか留まらないもの。
気が付けば周りはちっとも寒くない、眠っている間に冬を越してしまったようだ。
「それじゃあまるで冬眠ね。」
返事のない言葉はなんとも寂しい。
「なるほど、眠っていたのね。てっきり死んでいるのかと。」
返って来ないはずの返事はなめらかに私の耳に届く。驚きはした、だが振り返ることはしなかった。この監獄城
に侵入者なんてありえないものだから、感想はこれだけ。
「ああ…ついに幻聴まで聞こえるように…。」
「…。」
しばらくの沈黙。
「ふふっ…、あはははは!あなたって面白いわ!そう、この世界の中枢を目前にして私をあなたの精神異常扱いだなんて!」
さすがに気分を害した、なにも本当に幻聴だなんて思っていない。
「冗談よ、誰かな?君は。」
その青い装束を身に纏った少女は私に向かって悠々とスカートの裾を摘まんでお辞儀をした。
「初めまして、世界の中枢、始まりの女神。百獣の女王、ポトニアテローンの称号を持つもの。死と再生の女神の一柱。名前はたくさんあるけれど、私は皆にはこう名乗ることにしているわ。――キュベレーと。」
今まで彼女は目を伏せていたから分からなかったが青い装束とは相反の赫い紅い目をしていた。彼女の自己紹介には魔が潜むような感覚がある、それともただ私が異物のない綺麗すぎる場所にいたからそう感じるのか。
「この城は私を守るもの。私が許せばあなたはここから出られるでしょう。」
それは疑問符をつけなくても私に問うていると本能的に理解できてしまう。
「ああ、飽きてしまった。慣れた風景にも、分かり切った夢の中にも。傍観するこの塔の座はどうも私には高すぎたようでね。飽きてしまった。」
その少女は、その女は思い通りに物が進んだと勝ち誇った笑みを見せた。
「従いなさい、出してあげるから。」
それが最後の私の城の中の記憶だ。