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ヴァルハラの指輪  作者: 吉城 桜
一章   外の「世界」で
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四節   時/現在

「あら、もう帰ってきたの。珍しいのね。」

 家にいたのはヴェル、もといヴェルザンディ。スクルドの姉であり現在を司る女神。彼女もまた運命の女神ノルンの一人。

 ばたん、と扉の閉まる不愛想な音。

「ヴェル、すまない。私のせいだ。」

「別に、オウカのせいではないと。」

スクルドが言う、変わらず不機嫌ではあるようだけど。

「そして、不機嫌っと。」

「ヴェル...。」

スクルドは黙って自室に行ってしまった。呆れ顔でヴェルをたしなめることしかできない。

「なにか?」

スクルドに意地悪なのは無意識らしい。

これはもうため息しかでない。

「どうしてここに来たの?特に用もないでしょうに。」

本を手に取ってパラパラとめくっている彼女に用があるとも思えない。

「禁書庫、魔導書の整理。」

「終わったところ?」

「始めてないところ。」

長い髪を耳にかけながら本をめくる。気が付けば夕方。その仕草はとても優雅に感じる。

二人には悪いけれど、女神と云われて最も納得できるのはヴェルザンディだと私は思う。

スクルドは未来を象徴する子供の姿、ウルズは過去にとらわれた子供の姿。そこでヴェルザンディだけは今に至る成人の姿なのだから。

栗毛を後ろに半分だけまとめた青いリボン。

青を基調にまとめたロングドレス。片目が前髪で隠れているのが気にはなるが。

「始めればいいじゃない。」

「面倒だから。」

見た目は大人なのに思考は子供なのか、ただの面倒くさがりなのか。それとも整理が嫌なのか。

在るべき場所に(Es heilt )。」

部屋に散らばっていた本が消える。

「はい、終わり。」

「...早いじゃないか...。」

魔術を使って終わり、なんて何も面倒ではないと思う。それか、干渉しにくい場所のものだったのか。

「ヴェル、何が面倒だったの?」

「刻印。新しい書庫だったから刻印が埋め込まれてなかった。」

刻印による魔術でヴェルは書庫の整理をしている。なるほど、新たに刻印を埋め込んでいたらしい。

「そしたら夢中になって読んじゃった。」

私もたまにやってしまうことだけど、

「ヴェル...やっぱりあなたは子供なの。」

「子供じゃない、女神さま。」

「うん、そうね。聞いた私がバカだったわ。」

しばらくの沈黙。話すことがないとこうなる。

気まずくはないけど、少し居心地が悪い。

「スクルド、見てきたら?」

ヴェルの言葉に無言で頷く。席を立ち、階段を駆け上がった。


 我ながら、情けないと思う。きっと何年も私より短い生涯しか歩んでいない人間に私は事あるごとに苛立つ。

 なぜ、そんなこともできない。なぜそんなにも無能なのか。

 なぜ、そんなにも無能で愚かなのに桜華かのじょはそんなにも嬉しそうに過ごす。

「変なの、私は間違っても神であるのに。」

その少女にんげんの行いが愚かとは捨てきれない。

 窓から流れる夕日の光を肌に感じながらスクルドは静かに目を閉じた。


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