始動!?
「狭山くん」
3時間目が終わると同時に勢いよく天見が教室に入ってくる。
すごい目をキラキラさせている部員でも見つかったのか??
バン!!
すごい勢いで机の上に紙切れを叩きつけた。
「こ、これ!」
「お、おう」
「せ、せんぱ、なのば、な、せ、せん、から」
なにか焦っているのは伝わってくるが何を伝えたいのか全くわからない、ほかの教室からいきなり入ってきてこの調子だからクラスメイトの視線も痛い。
「と、とりあえず落ち着け、な??」
「は、はいぃ」
頷くと同時に深呼吸を少し繰り返す天見
「あ、あのこれ菜ノ花さんから私達宛に」
声劇部の部室はここ!!!昼休みに一度顔出ししてみてね!!
部室って廃部した部活なのにまだ残っているのか? そういえば3人集まれば部員募集もかねて部室使用許可が下りるんだっけ、確か昨日職員室に行く前にいろいろと学生手帳に書いてある部活申請の欄にそんなことが書かれていた気がする。
「先生から鍵も受け取りました!!」
すごいドヤ顔で鍵も突きつけられる
「とりあえずは昼休みに部室に来いって事だよな?」
「そういう事だと思います。先生も渡されただけらしいので」
「そっか、ならまた昼休みにうちの教室前に集合ってことで関目と千林にも声かけておくよ」
「わかりました!」
「じゃあまたあとで」
「はい!」
元気よく教室を出ていった。
部活をするって決めてから本当に張り切ってるよな天見のやつ、まあでも今まで自分を表に出さずに過ごしてきたっぽいしこれくらいの方がいいのかもな。
「おい、関目〜」
「な、なによ」
天見が入ってきてこちらに近づいてくると同時に逃げるように教室を出た関目に先ほどの要件を伝える
「うん、わかったわよ、私も時間あったし、べ、べつに私が行きたいって訳では無いんだけど悠貴がどうしてもって言うなら?行かないわけには行かないし?わ、私が行きたいって言ってるわ……」
あー……こうなると長いんだよな関目のやつ周りも見えなくなるしな…とりあえず千林の方に声かけておくか
「おい千林」
「なんだー?狭山」
「昼休み時間あるか?」
「暇だけど何すんの?」
「お前に会いたいって女の子がいてさ」
「おっけい!!!万全の準備をしていくぜ!!!」
っとこんなもんでいいかな、
グダグダしているといつものように授業が始まる。部員も千林を含めて4人集まった、あと1人で部が成立する。ほんと我ながらなんでこんな状況になってるんだろうな、俺自身入るつもりもないのに。ただ天見があの頃の俺に似てたからほって置けなかったんだろうな、誰からも頼りにされず誰とも繋がりを持っていなかったあの一番辛かった時期、俺も少しは立ち直ることが出来たんだろうか…
こうして考えているうちに授業が終わる。
じゃあ行くか教室の外に集合してみんなで部室に向かう。
「てかさ、なんで関目と天見ちゃんまで一緒にきてるわけ?」
「あんたこそなんで来てるのよ、千林」
「いや俺は狭山が女の子紹介してく」
「よし!ここだ」
ややこしくなりそうなので少し強引に千林の話を終わらせた。
声劇部の部室は旧校舎にあり今年からどんどん綺麗な部室棟に部室が移動している中活動停止になったこの部や人数が少ない部活はここに取り残されてしまっているとのことだ。少し扉に触れてみるが管理が行き届いていないのか埃りがついている
「天見、開けてくれるか?」
「は、はい」
少しさびているのは開けるのに手間がかかった。いかにも旧校舎って感じだ。
「しっつれい」
千林がノリノリで前に出てくる。
「失礼しまーす」
と大きい声で叫びドアを開け中にヘッドスライディングするかのように飛び込んでいく
「二年D組の千林です!よろしくお願いしまーーーす」
ゴーーーン
すごい音が響き渡った。
.......
「はいるかぁ」
「うわ、蜘蛛の巣張ってるわよ」
「荷物が一杯です」
何事もなかったといわんばかりに部室の中に入っていく、うん何もなかったよ、たぶん
「ってちょっとまてーーー」
あー気のせいじゃなかったのか
「何だよ、みんなお前に気を遣ってせっかくスルーしてあげてたのにさ」
「女の子どこにいるんだよ!!」
「え?何の話??」
「あんた俺を呼び出した理由覚えてますよね!?」
「なんだっけ?」
「帰る」
「まあそういうなよ」
出て行こうとする千林の襟をつかむ
「またはめやがったな!!」
「だからいつも言ってるだろ、はめられるお前が悪い」
「ちくしょー」
なんていつものようなやりとりをしつつ部室の中を見渡す。先ほど二人が言っていたように蜘蛛の巣はあるわ荷物も一杯あるわで物置状態だった。一ヶ月かそこらでこんなになるものなのか?
「なにかあるわよ」
散らかっている中机の上に手紙のような物が置いてあった。これだけは最近の物なのか埃をかぶっていなかった。
部活再建に向けて! 掃除!!!よろしく!!!
………
なんてこった。菜ノ花先輩とやらはこの汚くなった部屋の掃除を全部俺たちに任せるつもりらしい。
「掃除..ですか..」
すごいやる気を出していた天見ですら散らかり具合を見て絶句するような状態だ。
「でも、やるしかないよな」
「で、ですね」
天見に向かっても言ったつもりだか半分は自分に言い聞かせるための言葉だった。
俺は中学時代ある時期を境に全てを失った。俺はあの時どうにかしたいと思いながらもほとんど諦めていて行動を起こさなかった。そのままずるずる昔を引きずってこんな抜け殻のような生活を送っていた。でも天見は何もない状況から部活をしたいと頑張ることに決めたんだ、昔の自分が諦めた選択肢を今天見は取ろうとしている。だから俺は最大限天見を手助けしてやりたいと思う。
「こんな汚い所掃除してられるかよ、俺は降りるよ」
「お前も部員なんだからちゃんと参加しろ」
内心でこんなことを考えながらも真顔でまた千林の襟をつかむ。
「ちょっとまって?」
天見の後ろをなんとなくといった感じでついて行き教室の中でほうきをを持った関目が不思議そうな顔をして戻ってくる。
「どうした?」
「千林って部員なの?」
「言ってなかったか?」
「うん、まあ別に千林が部員だろうとそうじゃなかろうとどっちでもいいんだけどね」
「俺の言われようひどいっすね」
いちいち丁寧に千林が突っ込みを入れている。いつものことだ
「天見さんと、狭山、菜ノ花先輩、千林、それで私、部員は5人そろってるじゃない」
あ、俺まだこの部に入らないって関目に言っていなかったっけ
「狭山君はあくまでお手伝いという形で参加してくれていますので部には入らないですよ」
「え?」
天見が俺が言う前に説明を入れると関目が言葉以上に驚いているような顔をしていた。なんだ?なんかまずかったか?
「帰る」
「お、おい」
ほうきを壁に立てかけそのまま教室を出て行く関目それを千林が前に立ちふさがり止めようとする。
「ふっ、俺も掃除を手伝わないといけないことになったんだ、お前だけ逃がすとおもうか?」
ドヤ顔で関目の真っ正面に立つ、いつもの千林だがやはりいつも通りものすごくあほだ。
でもこいつの場合なんだかんだ言ってこういう時にはじめは逃げようとするものの最終的にはつきあってくれるんだよな。それは本当にいいところなんだろう。まああほだけど。
「あんたの許可なんて別に求めてないわよ」
と捨て台詞を吐くように千林強引に手で押しのけそのまままっすぐ歩いて行く。
……
しばらくまっすぐ歩く関目を見送りながら伝えないといけない事を思い出す。
「おい、関目」
少し距離が離れたが声をかけてみる。
返事がない完全にスルーきめやがった。でもこれは伝えておかないと後で関目が惨めになってしまうから諦めずにもう一度よんでみる。
「なによ!!」
振り返り少し大きな声でこちらに言い返してくる。
「そこまっすぐ行っても教室には戻れないぞ」
「あ、」
そこで関目も気づいたようだった。この旧校舎から俺たちの教室に行くためには一度一階まで降りないといけない。でも階段は俺たちの目の前にあるのだ。つまり関目はさんざん歩いてまたこっちに戻ってこないといけなくなる。すごく気まずい気持ちになってしまうから早めに伝えないといけないと思った。
そのまま関目は顔を真っ赤にしてすごいスピードでこちらに戻ってきあたかも何もなかったかのように教室の中の掃除を続行した。
ま、まあ結果オーライかな。
そして昼休みが終わるチャイムとともに掃除がなんとか終わった。
本当に大変な掃除だった。
何が大変だったって主に関目だ。戻ってきて掃除を再開したはいいもののずっあわあわ為ている状態で、転んでバケツに汲んできた水を頭から被るわ、段ボールまみれの所にぶつかって大量の段ボールの下敷きになるわで、他にもいろいろありそのたびに天見に助けられていた。最後の方は関目も気を許したのか完全に友達になったかのように会話をしていた。
放課後になり天見が先生から菜ノ花さんが部室で待っているという連絡を受けていたのでまた4人で部室に向かうことにした。
「にしても菜ノ花先輩ってどんな人なんだろうね」
「そ、そうですね、優しい人だといいです」
「でもさ、俺たち部室に呼んで掃除しとけーって人だからそんなにいい人じゃないかもね」
「そ、そうでしょうか?」
「行ってみればわかることだろ」
昼休みに部室に向かった時に比べて明らかに会話が飛び交っていた。なんだかんだで二人も部に入るのを承諾してくれたし良いペースなのかもしれないな。
そして特に内容のない会話をしながら部室にたどり着いた。
「あけますね...」
三年の教室に入ろうとしていた天見と比べるとあまり緊張していない様子だった。緊張と言うよりはわくわくしているようなそんな感じがした。
ガラガラガラ
扉を開けると電気がついていなかった。菜ノ花さんより早く着いてしまったか?
電気をつける。
「「ようこそ、我が部室へ」」
誰かの声が聞こえてくる。でも周りを見渡しても誰もいない。どこから喋っているんだ?
ごぉぉぉぉぉぉん
しばらく間が開きすごい音が部室内に響き渡った。
「ヒィ」
ゴン
千林がびびっていたのか先ほどのものすごい音を聞きこけた。
いったい何が起るんだ。そしてまたしばらく静かになる。
ぱぁーーーーーん
と今度は音声というよりかはすごいリアルな音がした。ぱっと音の方向を振り向くと同時に机の下からものすごい勢いで人が飛び出してきた。
「ようこそ!!!!!!!!声劇部へ!!!!!!!!!!」
……
あまりに演出が凝り過ぎていてうまく反応ができなかった。どうするんだこれ。
机から飛び出してきたたぶん菜ノ花さんなのだろう驚かした本人もやらかしたと思ったのか俺たちを見て少し固まっている。
いやほんとどうするんだこれ
こうして菜ノ花と俺たちの出会いはあまりよくわからない感じで終わった。