これから始める
「ふぁ〜〜」大きなあくびをしながら家を出る。遅刻が多くて先生に注意されることもあるが、この通勤ラッシュが終わりあまり人の通らない道が少し気に入ってしまい寝坊した日は
のんびり通学することにしている。
「大丈夫ですか〜?」
遠くで声が聞こえた。特に聞きなれているという声ではないが昨日何回も聞いた声に似ている気がした。
どうせ遅刻だしと思いながらその声のする方に向かうことにする。
そこには道に迷ったのかはたまた荷物が多くて困ってたのかはわからないがそのおばあちゃんとそれを手助けしている天見がいた。
大きい荷物を天見が代わりに持ってあげているように見える。
「おーい」
少し困っているようにも見えたのでそのまま見過ごす気にもなれず声をかけることにした。
「あ、狭山君何でこんなところにいるんですか??」
「たまたま通りかかってさ、お前こそなしてるんだ?」
見た感じでだいたいわかっているが一応聞いてみる
「このおばあちゃんに道を訪ねられたので目的地までついて行こうとしてたんですが……」
「道に迷ったのか??」
「はい…」
少し申し訳なさそうな表情をする。
「すまないねぇ〜」
おばあちゃんも申し訳なさそうにしている。
「そんな謝らないでくださいこちらこそ案内すると言ったのに迷ってしまい……」
「で?どこまで行くんだ?」
え?と驚いたような顔をして天見がこちらを見ている。
「目的地だよ、迷ってんだろ?」
「い、いえ、でも学校は」
「どうせ遅刻だ気にすんな」
「で、でも……」
「なんだ?昨日言ったこともう忘れたのか?」
今思い出したのか少し数秒からだが硬直していた。
「こ、こんなときってなんて言えば….」
そんなの決まってんだろという顔をし俺は自信満々な顔を
して天見に向かって言った。
「助けて、でいいんだよ」
「じゃ、じゃあ…..」
少しもじもじしている。あまり人に助けを求めたことがなく恥ずかしいのだろうか。
「狭山君..たったずけてください!」
ほんとに緊張していたのだろうすごいでかい声でしかも少し噛んでいて何を言うのかわかってないと聞き直していそうなレベルだった。
「さ、狭山君?」
言えばいいと言われた言葉をいたのにもかかわらずそれに返答を返さなかった俺を不安になりながらのぞき込んでくる。
「ああ、いいよ!」
返答をもらえてほっとしたのか少し顔が緩んでいた。でもそのときの顔は昨日の晩公園で最後に見せた顔のように作りがなくとてもいい顔だった。
「ありがとうねぇ..」
無事お婆ちゃんを家までおくりとどけ二人で学校に向かうことになり、ならんで学校へ歩いて行く。
「ありがとうございます手伝ってくれて」
「いいよ、どうせ遅刻だったし」
そう、学校で友達がいっぱいいるわけでもなく、授業も寝たり千林とだべったりしているだけだから、対していくつもりにもならなくてこうして遅刻常習犯となっている。良く喋るやつは確かにいる顔もどちらかというと広い方だ、でも本当に仲のいいとなると千林ぐらいしか思い出せない、真面目かと言われるとどちらかというと不真面目なほうだ、進学校ではやはり不真面目な人間はみんなの輪の中には入ることが難しい会話していてもどこか気を遣われているような気がする。こんな生活を俺はどこかで退屈していたのかもしれないだから昨日出会ったばかりでまだ俺のことを知らない変な偏見のない天見にこんなに親しく接しているのだろう。
「なあ、お前って部活に入っても休みがちになるからって言っていたけどはいりたい部活はあったのか?」
こんな性格だ、もし本当に入りたい部活があったとしても、周りを気遣って入ろうとしなかったに違いない。
「ありました。」
「自分の体が弱いから周りを気遣ってはいらなかったのか?」
「それもあります、でもそれだけではないんです。一年生だった頃今より休みがちでほとんど学校に来ていませんでした、それにそのときはまだ入りたい部活はなかったんです。文化祭の日に休みがちだった私は仲のいい友達もいなかったので、一人体育館での発表会を座って見ていたんです。そこで、人形劇があったんです」
「人形劇?」
「はい、高校生にもなってって思いますよね」
天見がそのときのことを思い出しながら喋っているのか少し笑う
「私もそう思いました、ですがその人形劇は他の出し物と比べものにならないぐらい輝いていました。」
「良かった、面白かったとかじゃなく?」
「はい、できは他と比べたら劣っていたかもしれませんでも輝いて見えたんです。みんなで一生懸命作った作品というのがものすごく伝わってきて私もここに入りたいと思ったんです」
「それって何部なんだ?」
人形劇部なるものがうちの学校にあるなんてきいたことがない、シンプルに疑問に思った。
「声劇部です。」
言われてみれば確かに一年生の時にもらったパンフレットにそんなものが書いてあった気がする。
「でも、一年生の時はほとんど学校に来れていなかったので学校にもっと通えるようになってから申請を出してみようと思ったんです。そして二年生になり一年生の時より通えるようになったので職員室に入部届を持って行ったんです。ですが….」
「何があったんだ。」
「私たちが二年生になると同時に人数不足で廃部になったそうです….」
「なるほどな..」
「せっかく体調が良くなったのに..本当に残念でした。」
本当にショックだったのだろうはじめはものすごく明るく話をしていたのに廃部の話になってからどんどん表情が暗くなっていく。公園のときもそうだった彼女のこんな顔を見るとなんとかしてあげたくなってしまう。
「まだお前はその部活があるなら入りたいと思うか?」
少しお節介なのかもしれない、でも俺にこんなに自分の話をしてくれるやつなんて学校にも全然いないしそれがうれしかったのかもしれない、もしまだ天見が部活に入りたい気でいるなら、また少し踏み込んでやろうと思った。
「入れるなら、入りたいと思ってます。」
「ならさ、」
ほんとなんでこんなに首を突っ込んでいるんだろうと不思議に思ってしまう。でも、ここでなにも行動しない気にもなれないだからもっと踏み込んでやる。
「お前が声劇部を作ればいいんだ!」
こうして俺たちはまた一歩ずつ先へ進んでいくんだろうと思う。