Johnについて
何を前書くといふのだ
サモア人のマイナーな部族であるピロリ族には首から胴体、足部を分けて考える文化が無かった。だから「彼」を普通の人と考えていた。あ、「彼」というのは、このピロリ族には名前を付ける文化が無いのでして、男はみんな彼(便宜的にそう訳している)で女はみんな彼女だった。神の下の平等、的な観念らしい。呼ぶときは皆「3番目に大きなトチノキの右側の家の彼」だとか「洗濯物がディスパレットに干されている家の彼女の母」だとかいうふうに区別されていた。ここでは敢えて区別するためにその「彼」をJohnと呼ぶことにしよう。で、そのJohnの何が変かと申しますと、彼には、あ、ここで言う彼とはJohnの事を指す代名詞でありピロリ族で言う所の男性の事ではなひです、Johnには胴体と首がなんと!無かった。全くと言って良いほど無かった。いや、有るというに相応しくないと言うよりかは、無かった。無です。ゼロです。首と胴体が無いってどういうこと?って頭の上に「?」が浮かんだそこのアナタ、その「?」は300円ですからね。というわけで、Johnは頭足人でした。Johnは地元では「ミカンの腐った皮にも及ばぬヘボい家の彼」と呼ばれており、これはJohnが酷く地元peopleに蔑まれているのかと思いきやそうでは無いらしい。ミカンの腐った皮はこの地方の伝統的な、いやデントー式の肥料でありその後の「及ばぬヘボい」というのは倒置法的な、意味を逆に捕らえよ、的な、つまり下げる事によって逆に上げるのでつまり普通デス。ってJohnの家族は言ってます。でもJohnにはちゃんと2、3人の親友も居りましたし本居宣長のファンでもあった。なんで日本の文化が伝播してんのかは判らんのですが多分テレビジョンの電波とかが紛れ混んでいるんでしょう。で、そんな奇抜なJohnが、まあ居ます、みたいな話だったらJohnが死ぬまで世にはその事を秘匿しとけば事は済んだのでせうが、そのJohnには不思議な力があると言うのでます。地元peopleによると、Johnは病気を治してくれたり、死んだ筈の息子を蘇らせてくれたり、何も無い所から突然現れてくれたりするそうです。その時々によって繰り出す能力は違うらしく、中には「私を増やしてもらった」っていう人も居ました。その現象はどのくらいの頻度で起きるのか聞くと、大抵1日に2、3回だとゐゝます。こりゃエライ事ですよ。取り敢えずそのJohnに会ってみます。
Johnは普通にベンチで惚けて居ました。ア、Johnはもちろん頭足人なのでベンチに座った姿は立っている時よりかなり異常です。てか、そもそも内臓とかどーなってんスカ?とか聞いたら嫌われるかも知れないので、今日はいい天気ですね、と話しかけてみました。「長老、アマが錯乱状態」とJohnは答えてくれた。これは日本語に見えて日本語ではなくピロリ族の言葉です。「やあ、たしかに、ぼーっとしちゃうね」という意味です。てか、なんでこんなにピロリ語と日本語が似てんのかは全くの謎で、恐らくはテレビジョンの電波とかが混入してるのでしょうね。
私「イ・ミョンボンよ、ロクでもないキムチは内臓に鉛筆?」
John「桜。頭ボワっとレスポンシビリティ、時々財布、雨」
私「ええ、その時々によりけりですよ」
John「ハクビシン」
こうしてJohnの日本行きが決定したのでした。そもそも頭足人であるJohnが飛行機とか乗れるのか謎でしたが、オーバーサイズのコートとか着れば多少人間型に見えるということで、何とかやり過ごしました。日本に着くと逆にJohnは御もてなしを受けた。障害者にも優しい国でしたから。まあ、頭から手足生えるパターンも簡単に受け入れられたのです。で、早速テレビ出演することになったのですが、収録後ディレクターから「このVは使えない」と言われてしまった。Johnの話すピロリ語がマズかった。確かに収録中のJohnの発言を聞くと「オマエの国のメス豚にオレ様のチ◯ポブチ込んどく」「テレビ東京の本社ビルにサリンを撒く」といった発言があり、日本語として聞くとかなりヤバい意味だった。あと、収録中にタモリさんを縮めてしまったのは事務所的にNGだったかもしれない。兎に角テレビには使えないという事だったのでやむなくホテルに戻ることとした。だが、ホテルに戻る途中でJohnをポケットから落としてしまった。急いで探してみたが見当たらない。排水溝にでも落ちてしまったのか。明日警察署に紛失届を出そうかと思っている。
後には何も残らない