6、メリサの宝剣
クェトルと俺はオッサンのコレクション部屋につれてこられた。
あの応接間にあったような戸棚があった。それから壁には飾り用らしき剣や槍がぎょうさん並んどる。
武器とか並べとる人って、だいたい悪趣味やと思う。だって、ソレって人殺しの道具じゃないですか。
大きな窓はなく、明かり取りの小さな窓がいくつかあるだけ。どうやらドロボウに入りにくいようにできた部屋みたいや。
応接間との決定的な違いがある。それは、警備する人付きってことやな。入り口の外に立っとった警備人が一人、中までついてきた。
そんなに盗られるのが心配なんやったら、いっそのこと収集をやめたらエエやん。ほぼアホやん。金持ちのオッサンがすることは意味分からん。
オッサンは戸棚の引き出しから、白い布に包まれた物を出してきた。ちょうど大人の片腕ぐらいの長さや。
「これですわ」
オッサンは『見んかい』と言わんばかりに自慢げに、テカテカした布の包みを開き始めた。
布が剥がれていくと、鏡のような物が次第に現われる。
ものすごく磨き込まれた美しい剣が出てきた。それはもう、剣型の鏡かと思うぐらいツルツルや。夕暮れの色が映り込んでる。
しかし、なぜ鞘に入ってないんやろか?剣っていうから、固定概念で鞘に収まっとるものやと思ってた。
「剣、いう物は鞘があってナンボや。抜き身で護るモンがないんは、どうもよろしゅおまへん」
俺の心ん中の疑問に答えるかのようにオッサンが言う。
つか、まさか、メリサの宝剣を手に入れてこいって言うんは、鞘だけなんやろか?
「もしかして、これがメリサの宝剣なんですか?」
「ほぉ、意外に察しがエエな。いかにも、これが宝剣や。ただ、混乱の中、刀身と鞘とが離れ離れになってしもとるんや。おお、かわいそうに、きっと鞘もワシんとこに来たいハズや」
それはどうだか、と思ったけど、口に出すのんはやめた。
「さて、その問題の鞘はどこにあるんでしょう。…答えはやな、ネゼロア山の麓に住んどるマダンという男のところなんや」
だから何やねん。もったいぶって、このオッサン。アホかいな。
……と、チラッとクェトルを見やると、さっきからずっと無言な上に無表情やった。コイツ、もはや外界から遮断されたようなヤツやな。
「だから、その人の所まで行って譲ってもらってきたらイイんでしょ」
「そや。マダンにカネを出せと言われたら、ヴァーバルのラダがいくらでも出す言うとったと伝えぃ。ナンボでも出したるわい!」
オッサンはワッハッハと笑った。