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4、ぶちキレますがな




「オイ、ワレとこの爺さん、あこぎな商売してオヤジたぶらかさんといてくれるか」


 ダフはニヤニヤしながら、あいかわらず傲慢不遜な態度で見下して言うた。


 ところで、『傲慢不遜』の意味を言えと言われても分からへんねんけど。でも、まぁ、そんな言葉が似合う感じや。




 俺は、かなりムカついてきた。


「たぶらかすー?!逆にアンタの父さんが、じーちゃんたぶらかしとるやんか!めちゃくちゃ言うとるらしいし」


 ハラ立った勢いで、思わず割り込んで言い返しとった。


 しかし、当の本人クェトルはといえば、黙ってダフを見据えとるだけ。しかも、ほぼ無表情で。



 ダフは、どう生きてきたらそんなに性格悪そうになるんや、というぐらい意地の悪い顔をしている。




「それとなぁ、ワレのオヤジ、死んだんやってのぅ」


 人の親父が死んだってゆうのに、この言い方。なに考えとんねん。ムカつくを通り越して、あきれるわ。いくら非常識な俺でも、さすがにこんな発言はせえへんで。


 俺はハラ立ってるんやけど、クェトルの顔を見ると眉ひとつ動かさんと冷ややかな表情のままダフを見据えとる。この人に感情というモンはないんやろか?


 それとも、ダフの言葉が通じてないとか?




 って、そんなことは、どーでもイイねん!はよ何とかせんと!


 こんな非常時は、じーちゃん置いてでも、はよ帰ったほうがエエ。


「行こ。帰ろ。なァ」


 俺はクェトルの腕を強く引っ張った。


 引かれるに任せ、しぶしぶといった感じで何とか俺にしたがってくれた。



 俺は警戒しながらチラリと振り返ってみた。


 ダフは様子を窺う、ってゆーか、顔色を窺うように間を置いている。絶対に、たくらんでいる!だって、ニヤニヤ以外に形容のしようがない表情なんやもん。




「オヤジ、地位をカネで買うたらしいな。まぁ、それでも黒騎士ふぜいやけどな」


「何だと」


 クェトルの目つきがスッと鋭くなった。ただでさえ目つきが悪いのに、めっちゃ恐ぇ~。


 せっかく帰る気になって背を向けてたのに、向き直ってダフをにらみつけ始めた。



 とっさに俺は間に入るような形でクェトルを押し留めた。


「なぁ、もう帰ろって!こんなヤツ、何も相手なることないやんか」


 俺は力いっぱい押し戻しながら説得する。でも、本人は動く気ゼロ。むしろ一触即発という難しい単語が頭をよぎる。


 超ヤバい。いくらクェトルが冷静でも、こんなウザい野郎を相手にしとったら、ぶちキレるのは時間の問題やし。


 はよ、この場を離れんと!


 ……てか、もう手遅れかも?



 ダフはといえば、下目遣いに嘲笑っとる。作戦どおり巧く焚き付けてやったと、ほくそ笑んどるんやろか。性格悪いのんも、ここまできたら勲章モノやな。



 どんなハラ立たしい言葉がダフの口から飛び出すかとヒヤヒヤしつつも、もうどうしようもないような、いわゆる諦めの境地に入ったような具合や。


 俺は、もう知らん。




「まぁ、臆病モンのお前なんか、カネつかまして騎士になるどころか、爺さんの下劣な生業なりわいを手伝うとるほうがお似合いとちゃうんけ」


 カチンとかプチンとかいう音が聞こえてきそうやった。


「アカン!ハメられとるんやで!」


 俺の力なんかで抱き留めたってアカンのは分かっとるけど、力の限りしがみついた。



 しかし、無言で振りほどかれるのんが早いか、その拳はダフの顔面をどストライクに捉えていた。


 俺が引っくり返るのんと、向こうのほうへダフがブッ飛んだのが同時やった。


 事態の大きさに、さーっと背中全体に虫が這うたみたいになる。



「あほッ!俺、知らんで!止めたのに!」


 俺は裏返った声で叫んでた。



 しかし、火のついた野郎たちに俺の叫びなんか届くわけなかった。


「なんなワレ、やるんけっ!」


 そう口にしたダフは手の甲で鼻血をぬぐいながら起き上がり、クェトルに掴みかかった。



 情けないことに、非力で無力な俺にはどうしようもなかった。ただ見てるしか。


 そらそやん、考えてもごらんなさい。背ぇの高い立派なアンちゃんが二人、マジで殴り合っとったら、そんなん、華奢で上品な俺が中に入って止められるわけないやん。


 ってゆーか、むしろ巻き込まれそうで、そばで見てるだけでも怖い!




 上になり下になり、目も当てられん取っ組み合いになっている。廊下に飾ってあった絵、おあつらえ向きの高そうな彫像が散々の粉々や。



 目を閉じたって目の前の現実が消えるワケでもないのに、俺は目をつぶってみる。


 この事態、なかったことにならんやろか……?





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