3、密談は蜜の味?
「オヤジ、話って何や」
あの声はダフや。オッサンだけじゃなくダフまで一緒なんやな。く~、声を聞いただけでもゾッとするわ!
ソファに腰かけるらしきギシリという音が聞こえた。勝手ながら、あんまり長居せんといてほしいのですが。
「あのな、お前も知っとるとおり、あのレン爺さんのことなんや」
じーちゃんのことや!
「ああ、分かっとるがな。なかなか首を縦に振らんのやろ」
「そや。ワシとしたら何としてもメリサの宝剣を手に入れたいんじゃが、それだけはナンボ金積む言うても強うに断りよるんや」
メリサの宝剣?じーちゃんがラダの主人にしつこく頼まれて困るって言ってたような気がする。危険な仕事やから受けられんらしい。
そのことなんやろか?
「意固地にならんと他の奴に頼んだらエエやろが」
「アカン。ワシにも意地があるんや。何としてもアイツにやらせたいんや。それに、ワシは人が困るのを見るんが好きな性分やからな」
ダフは鼻で笑って「ホンマじゃ」と同調した。
なんつー性格悪い親子や。今にバチ当たるわ。つか、バチ当たれよ。
「で、オレは何したらエエんじゃ」
「あのレンの小倅、あれをうまいこと挑発でもして、言いワケ立たんようにしたいんじゃが、お前、できるか?」
クェトルのことや!
じーちゃんが宝剣の話を断れんように、言いがかりをつける材料にするつもりなんやな!いやー、やらしっ!
「まあ、単純な奴ちゃうけど、うまく挑発したったら乗るやろ。それに、オレとしても、いっぺんやったりたかったんじゃ」
「ほな頼むわな。あんじょうやりや」
部屋を出て行った気配、戸を閉める音がした。
ってゆーか、どーしたらエエんや!?
そや!クェトルに、はよ知らせなアカン!
けど、オッサンが部屋に残ってタバコ吸うとるみたいやから、ドアから出るわけにイカンし。窓をガラガラ開けて出るわけにイカンし。
見つかったらマジでヤバい。何も盗ってなくてもドロボー呼ばわりされそうやし。わー、どないしょー?!
ポケットをさぐる。あいにく、なーんにも入ってない。くそっ、小石ぐらい拾とけば良かった。
ふと、自分の足元を見ると、硬貨が落ちてた。う~ん、これなら使えるかも。
そーっとしゃがんで拾う。
一か八か、ちらっとカーテンから顔を出して覗く。うまい具合にオッサンは背中をこっちに向けてるようや。
よし、と自分の中で小さく気合を入れて硬貨を投げた(本当は投げずに、自分のポケットに入れたかったけど)。
ねらいどおり、ソレがオッサンの向こうの床に落ちた音が聞こえた。
「ん?」
オッサンは硬貨の音に気を取られて立ち上がったみたいや。
俺は、そーっと窓を開けて乗り越えた。一階で良かったと、つくづく思う。
中庭に下りると素早く窓を閉め、横っ飛びに窓から離れた。我ながら迅速な行動やったと思う。俺でも、やろうと思たらできるんやなぁ。
さておき。人ん家の構造なんかイマイチ分からんけど、何となく中庭をぐるっと回ると、さっきの廊下の外へ着いた。
ガラスに顔をくっつけるようにして中を見ると、さっきの場所から少し離れた場所で、退屈そうに壁にもたれて座っとるクェトルが見えた。
窓ガラスを叩く。
「ちょっと!ちょー、開けて」
それに気づいたクェトルは、けげんそうな顔して立ち上がり、めんどくさそうに窓を開けた。
「馬鹿、何してんだ」
「バカでも何でもエエわぃな。も~、それっどころちゃうねん!あのな、今さっきな、俺、あっちの部屋におったやろ?その時な、オッサンとダフが、あの、じーちゃんと、お前に」
一生懸命に説明するんやけど、解ってくれなさそうやった。って、言っとる俺にもワケ解らんし!
頭ン中は真っ白になってしもて、説明するどころちゃうかった。でも、はよ、はよ言わな間に合わんようになる!でも、何から説明したらエエんや?!
「オレが何じゃ」
げげっ!その本人が来た!
ダフはニヤっと笑っている。
俺は急いで窓を乗り越えて廊下側に入った。
「クェトル!コイツとオッサンが、お前をワナにハメる相談しとったんやで!」
「ワナぁ?人聞き悪いのぅ。ワレこそ、どこで聞いたんじゃ、オイ」
言われたとおりで、俺は言葉に詰まった。言うてみれば、ドロボーに入った先で犯罪の相談してるのんを聞いて、それを密告しようとするようなもんですなァ。こりゃ、一本取られた。
……って、感心しとる場合とちゃうかった!
「ともかく!コイツの挑発なんか乗ったらアカンで!」
クェトルは俺を一瞥しただけで、すぐに視線をダフへと移した。