2、からの~
「俺が隠れるから、お前、探してや!」
俺が言うとクェトルは、あきれた顔をした。これは絶対にかくれんぼに参加してくれなさそうな顔や。目線が『やめろ』と語っている。
俺は「エエやん」と言いながら手近なドアの取っ手を回した。
どうせ鍵かかっとるやろと力いっぱい回したら、意外に軽くて不意討ちを食らった形になる。
開けたとたん、新しく建てた家みたいなにおいがした。
さっそく首突っ込んで中を見渡す。応接間みたいな部屋やな。真っ正面の大きいガラス窓から中庭が見える。
分厚いカーテンは窓の脇に寄せられてて部屋は明るい。
木の長い机をはさむように革のソファが二つ置かれている。
壁ぎわにはガラスのはまった豪華な戸棚。中には珍しそうなお酒のビンが並んどった。
それはもうムダに高級そうで、並んどるだけで憎たらしい。まあ、持ち主が持ち主やから、そういうふうに見えるんかも知れんが。ほうきの柄で割りたくなる俺って悪趣味?
さんざん観察しといて何なんやけど、俺ってホンマは謹み深いから勝手に入るのも心苦しいて「失礼します~」とだけ言うて部屋にお邪魔した。
部屋に入ると廊下より暖かく感じられた。
クェトルのほうを振り返って、「五分後ぐらいに探しに来てや!」と念押しして戸を閉めた。
……なんか、探しに来てくれなさそうな気もするけど、まあイイわ。かくれんぼより探索のほうが面白なってきた。こーゆーのって背徳的でゾクゾクする。
物語とかやったら、こういうシチュエーションでカッコいい主役が、館の主人の悪魔的悪事をあばいたりとかしそう。
それとか、部屋を探索してたら戸棚のうしろに知られざる第三の地下室とかがあって、地底城へつながってるとか。
う~ん、ロマンだねぇ。
と、その時、戸の外で声がした。
「この部屋には入らんといてくれはるか。あっちで待っといてくれ」
ラダのオッサンの声や。たぶんクェトルが言われたんやろ。
ってゆーか、ラダのオッサン、この部屋に入ってくるんやろか?! 勝手に入っとるんがバレたら何を言われるか分からん!
ヤベっ! 隠れんと!
俺は急いでカーテンの向こう側に飛び込んだ。
と同時に、ガチャリと戸が開いて人の気配がした。俺は思わず針のように細くなったつもりで、一生懸命カーテンと同化した。