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1、セルフかくれんぼ【挿絵】

幻惑の微睡みが、追憶へといざなう。

時と時の狭間にいだかれた鈍色の忘却は、尋ねれば色彩を得てゆく。

『追憶の微睡まどろみ


挿絵(By みてみん)


………………





 それを戯れに指でつまむと、ぐすりと割れてしまった。こんなに脆いものが身体を支えているのかと不思議に思う。



 どれだけ立派だった男も、たやすく崩れてしまうだけの白い残骸しか残らない。そこには地位も名誉もない。くだらない、本当にくだらない。



 どういうふうに生きてきたかなんてどうだってイイ。残るのは、残された者たちが持つ客観的な過去だけだ。




 頭骨の空虚な穴を見て、初めて死というものを実感した。


 だけど、死を実感したところで何だというんだ。悲しいという感情なんて涌いてこない。


 ただ、自分の心は冷たく凍りついているのだ、と感じただけだった。














…………


…………………………




 今日は、結構ぬくい。


 廊下に差し込んだ午後の光のおかげで、時間がゆっくり感じられるような気がするのは、ただの気のせい?



 窓を見上げると、真冬にしたら、やけに青くてキレイな空が見えた。ちぎれた雲がプカプカ浮かんどる。


 雲っていうもんは、ながめてると何かいろんな物に見えてくるから面白い。今でも、ドーナツやったのんが風に流されて今度は焼きいものように見えて……と、おなかがすいてることを思い出して食べ物のことは頭から追い出した。





 今日はラダ家の屋敷に来とった。


 俺に用事があって来たわけじゃなく、クェトルとクェトルのじーちゃんにつれられて来ただけ(……ってゆーか、俺が勝手についてきとるだけやけど)。


 ラダ家は、ヴァーバル城下の移民街屈指の大富豪で、主人が収集家で有名やった。


 まぁ、ウチの家も移民やから、ラダ家とは多少なりとも付き合いはあるけど。




 せやけど、俺はここの一人息子のダフが大嫌いやった。もー、なんてゆーか、イケズもイケズ、大イケズなヤローで、顔合わすたびに嫌がらせをされとった。


 どんな嫌がらせかと言うと、育ちが良くて繊細な俺なんか心に傷を負って立ち直れなくなるような内容や。聞くも涙、語るも涙、ブロークンハートが、しくしく痛い。



 そういうワケで、ホンマはこんな家、来たくないんやけど、何となく成り行きで来るはめになったわけや。……と、自分が頼み込んで勝手についてきたのは棚に上げてみる俺であった。




 ちなみに、クェトルのじーちゃんとこは口利き屋をやってる。せやから、草むしりから手紙のお届け、買いつけ、はたまた護衛まで幅広く、悪事以外は何でも引き受けとった。


 言うてみたら、何でも屋、便利屋ですわな。



 その仕事の中で俺でもできることを手伝わせてもろとった。まあ、俺なんかオマケってゆーか、むしろ邪魔してるだけっちゅーんも自覚してますけど。




 で、今日はラダの主人に頼まれとった買いつけの品を届けに来たというわけですわ。




 ところで、じーちゃんと主人が何か話があるそうで、さっきから俺らは廊下で、ずーっと待たされとった。俺らっていうのは、クェトルと俺です。念のため。



「なぁ。まだなんかいな」


 退屈に負けた俺は空を見ながらひとりごとを言うた。



 日ぃは暖かいけど、床は氷みたいに冷たい。地べたに座っとると、おケツが風邪ひきそうや。しかし、『おケツが風邪をひく』っちゅーことは、どういうことやろか?くしゃみするんか?おナラか?



 ……おっと危ない! 危うく真剣に考えそうになった寸前で現実世界に戻ってきた。




「なぁ。ヒマやから、かくれんぼしよ」


 俺が提案したらクェトルは眉をひそめて、いかにも迷惑っぽいイヤそうな顔をした。


 まあ、コイツは、だいたい俺がなに言うても、めんどくさそうでイヤそうにするけど。



 寒がりが寒そうにしとるから運動したら温まる思て親切で言うたったのに、分からんのかいな俺の親切。


 ……いや、かくれんぼしても温まらないような気がしてきた。隠れてたら、むしろ寒いんと違うやろか?




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