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8、チャンスはピンチ!


…………



 結局、努力の甲斐もなく伯爵のカギは奪えないまま時間だけが過ぎてゆく。もう11時は回っているだろう。



 アルは頭のリボンを退屈そうに結び直し、大きなアクビをした。


 こうして見ると、意外にアルの女装はサマになっている。もともと小柄で女顔だから似合うのは当たり前か。




「あ~あ。お色気もふりまいたけど、ぜんぜん、カギ取れへんやんか。つまらんから、つまみ食いでもしたろかな」


「やめとけよ、いちおうメイドなんだしサ。叱られるゾ」


「え~、イイやん。おなかすいたし。そこのケーキが、めっちゃ気になる~」


 テーブルに並ぶ甘そうな菓子を目線で差して甘党のアルが言った。俺ならば世の中に食うものがコレしかなくなっても口にしたくはないような代物だ。



「じゃ、ケーキやめて、チョコにしとくわ。一口で食べたらバレんやろ」


 と言いつつ、アルはキョロキョロと辺りを見回し、すばやくつまみ食いを実行した。


 まったく…。




「そやけど、モゴモゴ…伯爵のオッサン、お前のこと、やらしい目で見とったやん。誘われて、暗がりで、あーんなことや、こーんなことされても知らんで。うひひッ」


 アルがニタニタ顔で俺をつつく。まったく、下品な想像をする野郎だ。




 とは言え、認めたくはないが、確かに伯爵の不気味な視線を感じていた。同時に悪い予感もしているのだが…。



 ふと視線を上げると、俺のほうへ伯爵の付き人が向かってくるのが見えた。まっすぐに俺のほうへ来る。俺に用か?



 付き人の男は俺の前にピタリと止まると、うやうやしく一礼した。


「これを」


 そう言いながら付き人が俺の手のひらへ乗せたのは金色の小さなカギだった。赤いリボンがついている。


「このカギを持って、真夜中の1時、この建物の最上階の部屋へ来てください。伯爵がお待ちですから」


 それだけ告げ、男は一礼して去っていった。それは、まるで貴婦人にでも接するような振る舞いだった。




 一瞬、意味を考えてしまったが、恐れていたことが現実となって眼前に訪れたことを次の瞬間には悟り、おぞましさで背筋がゾクリとした。



 …俺は生け贄か!




「やったじゃん!これで正々堂々と伯爵に近づけるヨ!」


「おい。お前なぁ…」


「チャンスだヨ、チャンス!こんなチャンスは滅多にない。どうかオレたちのために、このチャンスをムダにせずガンバってくれ」


 ボンはチャンスを連呼して俺の肩をぽんと叩いた。一見、満身の期待を乗せたさわやかな笑顔のようだが…ボンのソレは明らかに悪魔のほほえみだった。




 少なくとも俺には、そう見えた。





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