7、城下にて
まだ朝の早い内にエスクローズの都へ着いた。正門が開いてからあまり時が経っていないようで、旅人らしき奴、近郊からの荷車などが固まって入街している。
灰色の石をアーチ状に積んだ街門をくぐると城下街の玄関にあたるちょっとした広場に出た。そこに立つ黄金に輝く等身大の立像が街道を行く旅人を静かに迎えている。
数代前の王であり、偉大な音楽家だった人物の像だと台座に刻まれている。
大通りは街の顔であり、どこの国でも一番美しい部分を見せているのだろうが、見たかぎり、エスクローズは見るものすべてが華やかだった。きちんと区画の整理もされているようで計画性が秀逸だ。
大路の一番奥まった所には小高い山があり、その中腹には城のような建物が張りついている。
ジェンスとアルは足取りも軽く、楽しそうにしゃべりながら街の風景を楽しんでいる。いつでもどこでも常に気楽な連中だ。
アルは小柄な身体でチョロチョロとジェンスにまとわりついている。この甘えの矛先をいつも自分に向けられているのかと思うと、うんざりする。まるでうるさい子犬だ。
「ねぇ。例のアレ、ジェンスは誰に届けたらエエと思うん?」
「誰に、かい?う~ん、普通に考えて国王陛下かなぁ」
ジェンスは少し考え、そう答えた。
城に行くことになりそうだが、城なんて場所に気安く出入りできる手引きになってくれるということだけは、このバカ王子に感謝しなくてはならない。
と、大路を通って城へ向かう途中、ジェンスは急に立ち止まった。それから振り返り、片手で俺たちを制する。
「ちょっと待っててね」
そう言って、その場に俺たちを待たせ、一人で路地の奥へと入っていった。
特に呼び止める意味も理由もなかったが、説明もなく取り残されると、本人が戻ってくるのをただ待つしかない。
路地の角を曲がったらしく、ここから姿は見えない。
「遅いなぁ。何してるんやろ?」
ひとりごとのようにアルがつぶやく。それに対して別段返す言葉があるわけでもなく、ただ手持ちぶさたな待ち時間を共有するしかない。
市でも近いのか、明るいざわめきが何気なく耳に届く。市のにぎわいの様子は、どこの国でも変わりはないようだ。
待つこと五分。路地の奥からこちらへ歩いてくる人影が見えた。
「うわ~、すごい!」
アルが驚きと喜び、半々の声を上げた。なぜならジェンスが黒髪で現れたからだ。
「お待たせ」
ジェンスは軽く片手を差し上げながら戻ってきた。見事に銀髪から黒髪に変わっている。ヅラなのだが、とても自然で作り物だとは思えない精巧さだ。
「お城へ行くのなら、これをかぶっていないとダメだからね」
ジェンスはヅラの毛をいじりながらニッと笑った。その白い指にからむ髪は、知らない者が見れば地毛だと信じて疑わない代物だ。