5、王子の含み
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一団の乾いた風が木々を騒がせながら吹き抜けて行った。透き通った青空のもと、風に揺れる新しい緑は生命の輝きに満ちあふれている。
ヴァーバルを立って一週間が経った。ヴァーバルの東隣の国レジナを東西に貫く街道を歩み続けてきた。その向こうに隣接するエスクローズとの国境はもうすぐだろう。
今日は晴れているが、日陰では肌寒い。
「なぁ~、まだなんか~?いつになったら着くん。いい加減、疲れたわ~」とアル。
「イイじゃないか、道のりが長いほど旅を長く楽しめるから。景色を見ながら気長にゆこうじゃないか」とジェンス。
結局、二人と一緒だ。アルは踊り子から例の物を受け取った本人だからともかく、このバカ王子まで、何でついてくるんだ?
「王子が城を何日も空けてイイのか」
「大丈夫だよ。ちゃんと城のほうに細工をしてきたから」
俺が皮肉まじりに問うと、皮肉に気づいているのかいないのかジェンスはニッコリと微笑み返してきた。
城の人間が王子を心配しようがしまいが俺の知ったことじゃあないが、内情が気になるのも人情だろう。
「城のほうにどういう細工をしてきた」
「もう。そんなに知りたいのかい?君は僕のことを心配してくれているのかな。ひょっとして僕のことが好きなのかい?」
ジェンスは歩きながら見返り、キザな仕草で白いサラサラとした長髪をかき上げながら言った。
うっとうしい髪だ。いつも切ってやりたくて仕方がない。
目が合うと同時に、目を細めてその女顔をにらみつけてやった。すると、ジェンスは肩をすくめてクスリと笑い、俺の横へ並んだ。俺の顔を横から覗き込んで満面の笑みを浮かべている。
「イヤだなぁ。そんな怖い顔してちゃあ、せっかくの端整な顔が台なしだよ。もっと君は自分の価値を分かったほうがイイよ」
そう言いながら口角を上げる。…意味ありげで不気味だ。
「顔も姿も非の打ちどころがないのに、中身に問題があるから女性が近づかないんだよ。もっと軟らかくなっちゃどうだい?」
「大きなお世話だ」
俺は露骨に嫌な顔をして見せ、視線を逸らした。
お前みたいに軟弱で、極端に軟派なのも逆に考え物だろ。
容姿のことは言われたくない。見た目の善し悪しなんて、死んで骨になってしまゃあ皆同じなんだから、どうだってイイことだ。
それに、別に誰も近づいてほしいとは思わない。人に寄って来られちゃ、わずらわしい。
それにしても、男でも女でも好きだという、このバカ王子の無節操ぶりが気に食わない。その多情でイイ加減なところが好きになれない。
…で、気がつきゃ結局は話をはぐらかされているし、雲みたいにつかみどころのない奴だ。
「ジェンスの言うとおりやん。お前の性格、どないかならんの?」
アルが振り返ってニタニタ顔で口を挟む。
コイツはコイツで自分のことを棚に上げやがって。お前にだけは言われたくない。