14、ガキのおもり
…………
オンを発って三日が経った。ヤム村までの行程の中ほどは過ぎただろうか。目標物になる建物も個性的な山も川も何もない。ただ広いだけの山裾の原っぱが続いていた。
背丈の低い草が延々と生い茂り、道はといえば獣道しかなく、時おりバッタの類いが草むらから飛び出してくる以外は人間に出会うこともない。
「なぁなぁ、しりとりせぇへん?」
退屈そうに石をけりながら俺のうしろのほうを歩いていたアルが急に早足で俺の横に並んだかと思うと、俺の顔を覗き込むようにして言った。
今日は珍しくずっと黙って歩いていたが、やはり黙ることに飽きたか。ガキじゃあるまいし、何でしりとりなんてしなきゃならないんだ。
「しりとり?馬鹿馬鹿しい」
「エエやん。お前からな、はい!」
はい、じゃないだろうが。強引にやらせようとしていたが、無視して黙っていた。
「なーぁー」
俺の腕をつかんで前後に振り回し、執拗に催促する。うるさい。
「はよー」
「うるさいな」
「なぁ。はよー」
「うるさい。分かった。…じゃあ、城」
俺が言うと、アルは俺を見上げてニカッと笑う。
「ん~とねぇ……熱い“炉”!」
「ろうそく」
「九ぅ」
「クシ」
「死ぬの“死”」
「し…湿地」
「血ぃ」
「ちまめ」
「目ぇ!」
「メシ」
「詩人とかの“詩ぃ”」
「シカ」
「蚊ぁ!」
…よく考えりゃ、一文字で返されると、一人でやらされているのと同じじゃないか。
「もうイイ。くだらん」
「冗談やて!今から真面目にやるから、続き続き!な!」
何を言われても俺は、だんまりを決め込んだ。
しばらくアルは一人でブツブツと文句を言っていた。いくら文句を言っても自分が悪いんだろうが。
道はあったりなかったりで心もとない。頼れる物は地図と磁石、そして勘だけだ。
ようやく申し訳程度に舗装された道らしい所を歩いていると車輪と蹄の音がし、うしろから幌のない一頭立ての荷馬車が追いついてきた。
俺たちを追い抜いたかと思うと、荷馬車は十メートルほど向こうに止まった。馬を操っている野良着の男のうしろ姿が見える。降りるようすはないが、止まっているということは俺たちに何か用なのだろうか。
「こんにちはー。あんたら、見ない顔だなぁ。この道をずーーっと行く気かい?」
横を通ろうとすると、男が帽子を脱いで甲高い声で呼びかけてきた。
「はあ、そうですけど…」
アルが窺うような猫背で応えた。
「良かったら乗せたげようか。そこまでだけど」
男の申し出に俺とアルは顔を見合わせた。
穏やかそうに見える男の語り口に裏はなさそうだ。広がったボサボサの髪をして、どことなく不格好な風体で、顔もお世辞にも良いとは言えず一風変わった男だ。
一瞬考えたが、結局は乗せてもらうことにした。