12、オンの街角
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これといって困難もなく、オンに着いたのはヴァーバルを発ってから予定どおり四日目の昼前だった。
オンは首都リザスから離れていてそんなに都会ではないはずだが、そこそこにぎわっていた。暑いさなか、いそいそと往来をゆく人足が途絶えることはない。
路の脇に所狭しと広げられた露店から漂う果物や香辛料のにおいが人いきれと混じり合い、雑然とした街の空気を織り成している。
大声を張り上げる売り子、地元の馴染みらしい軽装の客、熱心に品定めをする旅人たち。これといって物珍しい風景でもないが、それぞれの土地の風情というものがある。
「わぁ~、あっちは何の店やろ?なぁ、覗かへんの~?」
アルが俺の服をつかんで引きながら露店の一つを指差した。案の定、コイツは用事そっちのけだ。遊びに来たわけじゃないのだが。
「遊んでいるヒマはないんだぞ」
遊んでいると予定が狂う。アルにも説明しておいたように、渡す物を渡してすぐ元の道を折り返して帰路に就かなくては一日、損をする。
「まぁ、そんなカタいこと言いないな。お前はイラチやな~。エエやん、ちょっとぐらい。どケチ」
アルは人波の中で立ち止まり、俺のほうを振り返ってふくれる。道行く人間は邪魔そうに見て横を通り過ぎてゆく。路の真ん中で立ち止まっていては迷惑だ。
「じゃ、一人で遊んでろ」
俺の服をつかむアルの手を無理に引きはがして払い、その場に放置したまま俺は人波をかき分けて歩き出した。
「えーっ!ほってく気かいなー?!俺、迷子になって二度と帰られへんやん!ヒドい!困る~!待ってぇな~」
アルは驚き、急いで追いかけてきた。
「なぁなぁ。ところで、どこにいてはんの?そのモ…なんやらさんは」
それを今から探さなきゃならないってのに、遊び出しやがったのはどこのどいつだ?
露店のひしめく市を過ぎると、建物を構えた店が続く通りへ出た。
モントの鍛冶屋は大通りに面しているそうだが、さっきから通り沿いの吊るし看板を見続けているのに、なかなか鍛冶屋のものは見つからない。
今日は曇っていて日差しはマシだが蒸し暑さは変わらない。
行けども行けども街は広く、看板は見当たらない。イイ加減、暑くて疲れてきた。そうなると、即刻折り返すという予定にとらわれるのが面倒になってくる。
もうイイ、帰るのは明日にしようか…と、あきらめかけた時、鍛冶の道具をあしらった金属の看板が軒先に取りつけられているのが目に入った。
「あ!あれちゃうん?」
同時にアルも見つけたらしい。自然と顔を見合わせて互いにうなずいた。