4、ふらふら王子
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何の用だか知らないが、朝っぱらからジェンスの奴が来ている。
じっちゃんが気を遣って茶を出す。
「いえ、お構いなく。たいした用じゃありませんので」
ジェンスはバカ上品に澄ました白猫みたいに座って満面の笑みをじっちゃんに向ける。そりゃそうだ。いつもたいした用じゃないだろ。用事で来たためしがない。
「いやぁ、高貴なおかたに来ていただいて、お茶も出さないわけにはいかんよ」
ジェンスの前の卓に茶を置きながらじっちゃんは片目をつぶる。
じっちゃんはジェンスをただの貴族だと信じてるみたいだけど、本当は国王の息子なんだが…しかも、こうして身分を隠して街へ出現して遊んでやがる、とんでもない不良王子だ。
「何しに来た」
俺が横目で見ながら問うと、ジェンスはニッコリと笑った。
「ごあいさつだなぁ。あいかわらずキツいね、君は。…あ、このお茶、おいしいですね」
ジェンスの言葉にじっちゃんは二つ三つ大きくうなずきながら、その向かいへと座る。
「ところでお前さん。聞こう聞こうと思って、いつも聞きそびれるんだが、お前さんはどこに住んでんだい?北のほうのお屋敷街かい」
「はい。まぁ、北のほうです。でも、屋敷と呼べるかどうか…」
「まあ、ご謙遜を!」
二人は同時に声を立てて笑った。
バカバカしい。そりゃ屋敷じゃないだろ…城だ。
「ちょいと、不躾なことを言うかも知れんが…お前さん、いつ見ても男のくせにキレイだねぇ」
「いえ、それほどでも」
ジェンスは気取って、白髪のような長い銀髪をかき上げる。キザな奴め。
「名高い世界屈指の美男で、中央帝国の皇帝様と並ぶのが、我が国ヴァーバルの王子ジェラルド様ってウワサだが、お前さん、そのジェラルド様に負けてないねぇ。たぶん。いや、お世辞ヌキで!」
負けてるも負けてないも、ずばり本人じゃないか。
じっちゃんは、さらにジェンスの顔をジロジロと見る。
「いや、むしろ、ジェラルド様にそっくりだねぇ。髪の色は違うけど」
じっちゃんは自分のアゴに手をやって首をひねった。
どうやら今回はバレそうだな…。じっちゃんも顔を覚えるのが得意だから、正月か何かの祭りにでも参加していた王子ジェラルドの顔を覚えているのかも知れない。
ジェンスはいつもジェラルドの時は白い地毛を隠すために黒髪のヅラを着けているから、髪の色が違うのは当たっている。
「いえいえ。僕はジェラルド様みたいに美しくなんてありませんよ。たぶん、他人の空似ですよ、他人の」
謙遜してるのか、うぬぼれてるのか分からん奴だ。
「そうだな、そうだよな!似た人は三人いるって言うしな!…いや、五人だったかな」
また二人は同時に笑った。どうやらバレなかったみたいだ…けど、本人じゃなくて俺が心配してどうすんだ!