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19、八つの秘宝 3



「おそらく、詩の順番どおりの鍵を使えば開くのだと思うよ」


「えー!何でなんッ?!」


「だって、鍵穴の上に数字が書いてあるんだもの。だからきっと、この鍵穴には一番目に手に入れた鍵を差し込まなくっちゃあダメなんだよ」


 しかし、鍵は八つもある。ぜんぶ同じように見えて、たぶん普通は、どれがどの扉の鍵か見分けがつかないだろう。


「アホか~!そんなん、今さら判るわけないやん!ここに来る前に言うてや!」


 八つ足に襲われて死ぬのだけは許しがたい。人生最大の汚点だ。それだけは何としても回避したい。


 しかし、案の定、どいつもこいつも肝心の鍵の形なんて憶えていない。


「どれがどこの鍵だか憶えているから、場所の順番を読み上げてくれ」


 俺がジェンスに言うと、ジェンスは本のページをくり出した。悠長な動作がもどかしい。この野郎は急ぐということを知らないのだろうか?


「えーッ!??お前、どれがどれか憶えとんのか??そんなん、ほとんど変態やろ?!ってゆーか、ぜんぶ色も形も同じやんか!」


 アルが自分の両手の上にある八つの鍵をにらんで言った。ボンのかざす灯光に、水晶の鍵は、まるで俺に挑戦でもするかのように光り返している。


「あったよ。え~とね、一つ目は人居ぬ館だよ」


 俺はアルの両手に乗った水晶の鍵から一つを選び出した。みんな同じように見えるが、鍵の歯の部分に微細な違いがある。記憶だけは、おてのものだ。


 …しかし、ちぐはぐなことに、鍵の形は鮮明に憶えているのだが、場所の順序の記憶があやふやなのは我ながらなさけない。きっとそれは、この島が理不尽すぎるせいに違いない。



「ホンマかいな。デタラメちゃうん?」

 鍵をボンに手渡す。ボンも半信半疑で解錠を試みた。


 小気味よい音を立てて鍵は開いた。


「開いた!スゲーよ!」


「よう判るなぁ…」



 一つ目の鉄格子をくぐる。全員がくぐったあと、扉を閉めた。



 …が、まさか、だ。八つ足は薄っぺらい身体を利用して格子の間からゆっくりと侵入を始めた。


 しかも、扉から扉の空間は狭く、四人も入れば、いっぱいだ。そうなると当然、八つ足の侵入してくる手前の扉に非常に近くなるという待遇の悪い者が出てくるのは必至だ。



 もちろんそれは、例にもれず貧乏クジの俺だった。


 すでに八つ足の足先が俺の腕辺りにサワサワと触れている。人間、これでも人生ってヤツを投げ出してはならないのだろうか?


「うわーッ!はよせな、蜘蛛、追ってくるで!!」


「えーと、次が迷いの森だよ」


 ジェンスが、あいかわらずのんびりとした口調で読み上げた。さすが、こいつだけは緊迫感ゼロだ。



 …落ち着け、八つ足に動じずに落ち着いて選べ。迫りくる…というか、すでに俺の頬をくすぐっている八つ足に心を乱しそうになる自分へ言い聞かせる。


 しかし、どうでもイイが、懸命にやっている俺をかばってやろうという気は、お前らにはないのか?よりによって、薄情にも俺を八つ足の一番近くへと追い遣りやがって。


 アルの手の平から一つを選び出す。ボンがすかさず次の鉄格子を開けた。


「よし!開いたヨ!」


「次は捻りたる街、だよ。でも、一と三と五は、どれがどれだったか憶えているかなぁ」



 扉をくぐりながらジェンスは俺の前で読み上げた。分かった、分かったから…頼むから立ち止まらずに、早く前へ進んでくれ…!



 言われたとおり、理不尽な街の鍵屋で買わされた鍵の記憶を思い出す。一枚の絵のように鮮明に脳裏に浮かぶ鍵の形。



 背後に迫りくる恐ろしい気配を振り切りながらアルの両手上のそれと記憶との照合に専念する。…しかし、気配が気になるのが人情だろう。



 おぞましさと闘いながら三つの内の一つ目を選び出した。ジェンスに似て、どこかのんびりとした八つ足なのが不幸中の幸いだ。育ちがイイのだろうか?



 扉をくぐる。そして、二つ、三つ。


「次は顔の真中だよ」


 記憶を呼び覚まし、難なく鍵を合わせる。八つあった鍵も、やっと残り一つになった。



 最後の扉は、ありがたいことに鉄格子じゃなくて鉄板の扉だ。これならさすがに追っては来れないだろう。


 八つの扉を通り抜け、最後の扉を固く閉じた。心なしか戸の閉まる音が心強い。


「助かった~!」

 ボンとアルは地面にへたり込んだ。





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